番外編2 サプライズ1/11

8月8日(月)大安

 7月に、咲羅よりも一足早く訪れた私の誕生日。「なにが欲しい?」とストレートに聞いてきた彼女に「なにもいらないから、8月8日、一日絶対に予定入れないで。私に時間をちょうだい」とお願いした。「なにを企んでるの」ってぐいぐい詰められましたけど、なんとか逃げ切りました。咲羅はかなり不満げだったけど。


 そして迎えた今日。

 朝の6時に眠り姫のように美しい彼女を、油断したらうっとり見つめてしまいそうになるのを我慢して、叩き起こした。

「なになに……なんか今日あったっけ」

「今日、1日私に時間をちょうだいって言ってあったでしょ」

 欠伸をしながら片目をこする咲羅を洗面台に押し込んだ後、朝食を急いでテーブルに並べる。


 顔を洗っても眠そうにご飯をまったり食べる彼女を急かし――しっかり「なんなのもう」と小言をちょうだいしながら、身支度を整えた。

 ピロリン。

 ちょうど7時になったタイミングでスマホが鳴った。

 おーう、時間ぴったし。

「咲羅、行くよ」

「んにゅ?」

 未だに寝ぼけている咲羅を超特急で着替えさせて、駐車場へと向かった。


「遅い」

「すみません」

 後部座席に乗り込みながら、私は松岡先生から小言をちょうだいしました。いやー仕方ないとはいえ、今日は朝から文句を言われっぱなしだな。

 でも、全然落ち込んでない。これからのことで頭がいっぱいだもん。

「え、なんで松岡先生がいるの」

「出発すっぞ」

 咲羅の言葉を華麗にスルーした彼は、車を発進させた。


「マジでどこに向かってんの」

「そのうちわかるよ」

「スッピンなんだけど」

「今日は大丈夫」

 ごにょごにょ言い続ける咲羅に微笑みかければ、「んにゅっ」と言って黙った。

 えへへ、貴女が私の笑顔に弱いってことわかってるんだからね。


「あれ、この景色……」

 高速に乗ってビュンビュン流れる窓の外を眺めていた咲羅が、ボソッと呟いた。

 いい加減気づいたかな。私たちの行き先。

「もしかして、別荘に向かってる?」

「大正解」

 そう、私たちは咲羅が雲隠れしていた例の、岩本家の別荘に向かっているのだった。

「何故に?」

「秘密」

 首をコテンと傾けてニッコリ笑ったら、咲羅は無言でドアにもたれかかりました。

 ゴツンっ。

 およよ、結構痛そうな音聞こえましたけど。

「大丈夫?」

「痛い……」

「ですよねー」

 確実に頭をぶつけてましたよね。


 別荘に到着するまで、私はひたすら咲羅の頭を撫で続けたのでした。


「はい、到着」

 松岡先生が丁寧に車を停止させた。

「ありがとうございます」

「おう。それじゃあ、後でな」

「はい」

 状況を把握できていない咲羅は、ただ私たちのやりとりをじっと聞いていた。

 と思ったら、

「ちょっと待って!」

「んにゅ?」

 ドアを開けて降りようとするから、慌てて腕を引っ張る。

「これして」

「およよ」

 戸惑う彼女に手渡したのは、アイマスク。

「なんで」

「なんでも」

 これ以上はまだ説明できないから、問答無用でアイマスクを着用させて、咲羅の手をとって車を降りた。


「待ってたでやんすよー」

「お待たせ」

 にゃはは、と笑う駿ちゃんが、私の反対側に立って咲羅の手を引く。

「んにゃ、駿ちゃん?」

「駿ちゃんですよー」

 益々混乱している彼女の手を引いて、私たちは玄関のドアを開けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る