番外編1 夏休みの衝撃

 咲羅が活動休止してから、学校で普通に会う咲羅強火つよび担のクラスメイトや先生たちは元気そうだけど、彼女の姿を見られないファンは「早く帰ってきて……」ってSNSや動画に書き込んでる。

 いや、気が早いよ。申し訳ないけど。

 気持ちはわかるけどね。そりゃ、元オタクですから。


 仕事に追われることなく学校生活を満喫した咲羅は、夏休み初日「美容院に行ってくるね」と言って出かけた。

 夕方、

「ただいまー!」

 元気よく叫ぶ彼女を出迎えるために、玄関に続くリビングのドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、お尻まで伸びた超絶ロングへアをプラチナブロンドに染めた咲羅の姿だった。

 色白の肌に黒髪。

 まるで白雪姫みたいだった彼女は、外国のお姫様みたいになっていた。


 ぽかーんと口を開けたままフリーズする私に、

「え、似合ってない?」

 おろおろしだす咲羅。

 しまった。

 慌てて、

「滅茶苦茶似合ってるし可愛い。というか、綺麗でおとぎ話のお姫様みたいで綺麗で眩しくって外国のお嬢様みたいで立ってるだけで美し――」

「ストップストップ。わかったから!」

 息継ぎなしで喋り続けたら遮られました。せぬ。


 いやいや、咲羅の表情をよく見てみましょう。

 薄っすら頬を赤らめてます。

 わーお、照れてる! さくちゃん照れてる!


 なんだかとっても嬉しくなって、愛おしさが限界突破した私は思いっきり咲羅を抱きしめた。

 ふわりと香る、いつもと違う匂い。なんというか……フローラル。

 はい、美容院の匂いですね。

 日常とは違う匂いが気に入らなくって、いつかの彼女みたいに首元に顔をうずめて肩をぐりぐりする。

 早く私の匂いになれっ。


「にゃははっ、くすぐったい」

 私のちょっとした嫉妬なんて知らない咲羅は、身をよじって逃げようとする。

 逃がしませんよ。まだ上書きできてないんだから。

 背中に回した腕に力を込めて、私を匂いを彼女に押しつけた。


 因みにこのたわむれは、咲羅が「しつこいっ」と私の脳天に軽くチョップをくらわすまで続きました。

 痛かったです。暴力反対。


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