最終話 最高のステージを3

 ステージ袖。あと数分で幕が開く。

「いよいよですな」

「なにその口調」

 突然どうした。いにしえのオタクみたいな口調、初めて聞いたんですが。

 貴女、そんなキャラじゃないでしょう。

「にゃははっ」

 笑って誤魔化そうとするなよ……って、誤魔化そうとしてるのは緊張か。

 さっきも緊張してるって言ってたし、今も手がちょい震えてるし。


 いつだって堂々とステージに立っていた咲羅。

 だけど、本当は私と同じくらい泣き虫で、人の目を気にする少女。


 今までも私の前では素の『岩本咲羅』をだったけど、復縁してからはより深いところも見せてくれるようになった気がする。

 いい意味で変わったなあ。

 こみ上げてくる愛おしさを左手に込めて、彼女のちょっぴり震える手を握った。


「んにゅ?」

「私たちなら大丈夫だよ」

 幾度となく自分に言い聞かせてきた言葉を、不思議そうに私を見つめる大きな瞳に言った。

「今回のライブも上手くいく。そうでしょ?」

 咲羅がいつもするみたいに、首をコテンと傾ければ

「にゃはっ……そうね、2人でいれば無敵だもんね。絶対に成功させるよ」

 ぎゅっと手を握り返してくれたことに喜びを覚えながら、私は前を向いた。


 ファンにとって『活動休止』は不安しかないと思う。いろんなアイドルや芸能人が休んだまま芸能界を去っていった例なんて、いくらでもあるから。

 でも、私たちは必ず戻ってくる。

 復帰を信じてくれているみんなのために。

 私たちのアイドル人生のために。


「それじゃあ行きますか」

「にゃっす。いっちょ見せつけてやりますか!」

 私たちの生き様。

 にゃははっ、といつも通り最高に美しくて、明るい笑顔の咲羅。

 会場の照明が落とされた。

 出番だ。


 私たちは手を繋いだまま、ファンのみんなが待つステージへと駆け出した。


終わり

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