最終話 最高のステージを2/3

 物事には『始まり』があって必ず『終わり』がある。この世の全てに共通するもの。唯一、万人に等しく与えられたもの。

 でもね、私たちはそれに抗う。終わらせやしない。

 死ぬまで咲羅の隣にいるし、アイドルでい続ける。

 何度も繰り返し動画のインタビューで話したこと。

 きっとファンは「また言ってる」としか思わないんだろうな。まさか、新しグループが結成されるなんて想定外だろうし、メンバーを知ったらビックリ仰天しちゃうかも。


 あー早くみんなの驚く顔が見たい。

「気が早いよ」

 私よりも先にヘアメイクをしてもらって、可愛らしいツインテールで愛嬌を振りまく咲羅にツッコまれた。

「え、声に出てた?」

「出まくってた」

「オーマイガー」

 おいおい、私よ。通常運転すぎやしないか。もうちょっと緊張感もっていこうな。

 自分を戒めていたら、

「にゃははっ」

 突然咲羅が笑った。


「なに笑ってんのよ」

 頬を膨らませて拗ねてみせれば、

「いやー実はさ、私結構緊張してたんだよね」

「え?」

 嘘でしょ。11歳からアイドルをしてきた咲羅が緊張?

「嘘じゃないっての……だって、ガッツリ長期で休むのなんて初めてだし。どんな顔してファンの前に立てばいいか悩んでたんだって」

「成程」

 どんなことがあっても歩み続けた足を止めるんだもんね。

 休んでいる間にファンが離れていっちゃうんじゃないか。忘れられちゃうんじゃないか。不安になって、緊張して当然だ。


「でも、いつも通りのほほーんとしてる樹里を見てたら、悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃった」

 にゃは、って。ちょっとその言い方は失礼じゃありません? 女王様よ。

 再び頬を膨らませる私に、

「ごめんごめん。怒らないでよ、褒めてんだから」

「ホントに褒めてる?」

 どこにその要素がありましたか。一切感じられなかったんですが。

「褒めてるよ。私は私らしくみんなの前に立てばいいんだって思えたんだから。ありがとうね、樹里」


 ほんのりと頬を赤く染めているように見えるのは、チークのせいだろうか。それとも。

 うーん。どっちでもいいや。可愛いし、はい。

 てか、

「そっちこそ気が早いよ。お礼は終わってから、ね」

「それもそうか」

 調子を取り戻したのか、にゃはははと笑う咲羅の頭を撫でて、私もヘアメイクに移った。


「よしっ」

 ヘアメイクも、衣装も完璧!

「あ、樹里も準備できた? じゃあ写真撮ろ」

「ほいほい」

 咲羅の隣に立とうとしたら、

「ぎゅー」

 擬音を口にしながらバックハグされました! マジか、え、このまま写真撮るの!?


「にゃははっ、樹里ってば顔真っ赤ぁ」

「誰のせいだと――」

「撮りまーす」

「話聞けっ」

 私の話をガン無視して咲羅はシャッターボタンを

「何故連写」

「にゃははっ」

 ダメだ。会話にならない。

「通常運転でやんすねえ」

 駿ちゃんよ、眺めてないで助けてください。頼むよマネージャー。


 無駄にテンションが高い咲羅から解放された私は、机の上に置かれたセットリストに目を通す。


1:Overture

2:抱きしめて

3:立ち続ける(Sorelle ver.)

4:want u

5:彼女にしろよ、貴方の彼女になってあげる、私を愛してね(Remix ver.)

6:また会えるから

7:未来LIGHT


 リハは完璧だった。本番も完璧にやらないとね。

 そういえば今日、学校でクラスメイトや先生たちから「頑張ってね」って応援されたの。

 勿論みんなの期待に応えますよ。

 なんてたって私は、私たちは天下無敵のSorelleですから!






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