最終話 最高のステージを1/3
5月31日(火)
活動休止前、最後のライブ。開演は19時00分。1時間にも満たない短い時間。
ついにこの日が来てしまった。
昨日発売した6thシングルの売上は好調。フラゲ日でハーフミリオン、発売日には70万枚を突破している。
言葉では表現しきれないほど嬉しいよ。ファンのみんな、ありがとう。
まだ発表はできないけどね、私が出演する映画の挿入歌に『抱きしめて』が決定したんだって。
「にゃはっ、ありがたいねえ」
「そうだね」
休養に入ることが決まってから、咲羅の表情はとても柔らかくなったと思う。
やっぱり無理してたんだなあ。『休む』っていう選択をして良かった。
彼女が休んでいる間、私は女優業に専念することになる。
初めての映画撮影は無事に終わったけど、再来月から単発のドラマの撮影が始まる。
それ以外にも何本もドラマの仕事が決まってるの。
私が演技の仕事を受けることを決めたのは、Sorelleのため。表現力が身につくし、なによりエンドロールに『松本樹里(Sorelle)』と名前が載る。
咲羅がいつでも戻ってこられるように、居場所を守るんだ。
そう決意を語ったとき、駿ちゃんは「愛だねえ。にゃはっ」と笑っていた。
うん、その通り。愛だよ。愛でしかないんだよ。
愛おしい彼女のためだったらなんでもするんだから。
あの子の愛は重い、と周りの人は言うけどさ、私の愛だって重いんだからね。
重い愛。想い愛。
なんつって。
うわ、今滅茶苦茶下手なダジャレ考えたな。
「にゃは」
思わず漏れた笑い声。もうすっかり咲羅&駿ちゃんの笑い方に汚染されちゃいました。
「なになに、どうしたの」
咲羅が私の左肩に顎を乗せながら聞いてきた。
「いやあ、私たちって想い合ってるなって」
耳に感じる彼女の吐息と匂いに頬を赤くしながら素直に答えれば、
「にゃはは、当たり前じゃん」
ぐりぐりと顎を肩に押しつけてくる。愛おしい、可愛い。だけど、
「痛い痛い」
文句を言ったのに更にぐりぐりされて、いろいろと耐えきれなくなって咲羅から逃げ出したら追っかけられました。
リハ直後だというのに元気に鬼ごっこを始めた私たちを、生温かい目でスタッフさんたちが見まもっていたことを、私は知らない。
会場はデビューライブを行った、約700人の小さなキャパのとこ。思い出の場所だからね。「もっと大きなキャパでやるべきだ」ってスタッフさんと揉めたんだけど、やっぱりここから始まったんだから、この場所で一旦終わりを迎えたい。
ごねてごねてごねまくった結果、スタッフさんは折れて曽田さんは納得してくれた。
けど、当落発表の前から『抱きしめて』のMVやダンス動画、SNSに『頼むから配信してくれ』って声が大量にあって。
配信する予定なかったんだけど、急遽配信することになりました。
私たちの我が儘で小さなキャパにしちゃったんだもん。これぐらいはしないと。ごめんねえ、みんな。
今日の衣装は、デビューシングルの衣装をちょっとアレンジしたもの。
フィッシュテール――後ろの部分が結構長くなってて、地面すれすれ。
うっかり踏まないように練習しまくったんだよ。大変でした。
ピンヒールだって、元々は7㎝ヒールだった私も、咲羅と同じ10㎝に変更。
踊りにくかったです。非常に。
だけど、楽しかったんだよね。久しぶりだったかも。純粋に踊ることを、歌うことを楽しんだのは。
咲羅もすっごく楽しそうで。
私たちは『活動休止』に向けての日々を、毎秒噛みしめるように過ごした。
その様子は公式動画にアップされてるから、ファンのみんなも笑顔になってくれたらいいな。
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