番外編2 サプライズ2/11

「はい、もうマスク取って――」

 私が言い終えるよりも前に、咲羅はアイマスクをブンっと音がしそうな凄い勢いで取った。

 最後まで話は聞いて欲しかったけど、まぁここまでよく我慢したね。偉い偉い。

 心の中で彼女を褒めていたら、

「なにこれ」

 ぽかーんと口を開けて唖然あぜんとしちゃった咲羅。

 そりゃそうなるよね。


 リビングに広がっていたのは、数十着の純白のウェディングドレスとネックレスやベールなどの小物。


「待ってたで2人とも~」

 そして、今日衣装を用意してくれたSorelleソレッレ専属チームの衣装担当・松浦まつうらさん。

「お待たせしました」

「うん、大体予定通りやね。グッジョブ」

 咲羅の小言攻撃をくらいながら、なんとかここに辿り着いた私に、松浦さんが親指を立てて褒めてくれました。ありがとうございます。

 だけど、

「あの、衣装の量……」

「ごめん。2人になにが似合うか考えてたら、もうわけわからんくなってもてな。厳選したやつ持ってきた!」

 気合入り過ぎですよ、松浦さん。素敵なドレスを用意してくれたから文句言えないんですけど。選ぶだけで時間かかりそうです。

 時間に間に合うかなあ。


「あの、樹里」

 話に置いてきぼりになっていた咲羅が、漸く口を開いた。

「もしかして、今日しようとしてることって」

「うん。結婚式」

 彼女の肩に手を置きながら言ったら、再びフリーズしてしまった。

 おっと。やらかした?

「さくちゃん?」

「……はっ」

 大丈夫でした。すぐに戻ってきました。

「ごめん、ビックリしちゃって」

 ぐすん。

 およよ、鼻をすすったってことは。

 咲羅の顔を覗き込んでみれば、大きくて綺麗な両の瞳に薄っすら涙の膜がはっていた。


 マジか。マジですか。このタイミングで泣いちゃう!?

 想定外の彼女の反応にオロオロしていたら、

「まさか樹里がこんな嬉しいこと、考えてくれるなんて」

 抑えきれなくなった涙が頬を伝っていた。

「私ね、いつか結婚式ができたらいいなーって考えてたの。それが、こんなすぐに叶うなんて……夢みたい」

 涙を拭うことなく、咲羅は私に抱き着いてきて、ギュッと背中に回した腕に力を込めた。


「夢じゃないよ。ちょっと早いけど、私からの誕生日プレゼント。受け取ってくれる?」

 私よりも少し高い位置にある瞳を見つめれば、

「勿論。だけど、一緒に結婚式の計画立てたかったなあ」

 苦笑されちゃった。

「それは、ごめん。勝手に突っ走ちゃって」

「別にいいよ。嬉しいもん、樹里の気持ちが」

「にゃはっ、優しいなあ。さくちゃんは」

 もっと怒られるかもって考えていたから、咲羅が素直に喜んでくれてホッとした。

 同時に、私は人に恵まれてるんだなあ、なんてことを考えた。


「さくちゃんと結婚式がしたい」

 初めて駿ちゃんに相談したとき、彼は目をまん丸にして驚いていたけど

「まだ日本では同性同士の結婚は認められてない。でも、式を挙げるのは自由でしょ? それに、周りに認められればさくちゃんも、この不安定な関係に少しは悩まずにいられると思うんだ」

 私の言葉を聞いて

「相変わらず優しいねえ、樹里ちゃんは。にゃははっ」

 まるで子どもを見守る親みたいに優しく笑ってくれた。


「よしっ。そういうことなら俺っちに任せておいて!」

 右の拳で胸をドンっと叩きながら、

「因みに、いつがいいの?」

「あっ、えっとね。8月8日の大安。平日なんだけど……大丈夫かな」

「問題なしっ」

 いぇーい、と元気にピースをした駿ちゃんは、その日から動き出してくれた。


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