第56話 推しは人生3/6 *ファン*
帰宅後、「今日は一緒に参戦してくれてサンキューな。後で動画送るわ」というアイツの宣言通り大量のURLが送られてきた。昨日とは別の動画。JURIのソロ動画が9割。2人の動画が1割、と非常に偏った割合ではあったが。
「こんなにあんのかよ」
ちょっと引いたけど、まぁいいや。
同期は俺がJURIに惹かれたことまでお見通しだった。
なんかムカつく。でもまあ、有難いことに変わりはないから素直に感謝のメッセージを送って、過去の動画を観漁った。
毎週動画を更新しているらしく、デビューしてからそれほど日が経っていないというのに観るべきものは無限にあった。
「すげぇな」
sAkiに追いつこうと必死に練習するJURI。泣き虫なJURI。どの動画でも彼女は輝いていて、可愛かった。
観ているだけなのに心がときめいて、揺さぶられまくりだった。
「あーやば」
もしかして、もしかしなくても、これって『恋』なのではないだろうか。
太陽みたいに明るい笑顔、艶やかな髪。大きな瞳。
触れたくってしかたがない。
まさか、初恋がアイドルなんて。彼女いない歴
絶対報われない恋。最悪。だけど、今はそんなことどうでもいい。
動画を観ていくごとに塗り替えられていく俺の世界。
ある意味侵略者。
だけど、これはこれでいいんじゃないかって思える。
今まで惰性でなんとなく生きてきたけど、これからはJURIのために生きよう。仕事を頑張ろう。明日を迎えよう。
幸福に包まれる中、ふと目に入った公式動画のコメント欄。
「おいおいおい」
2人を応援する声に混じった「歌が聞いていられない」「sAkiより劣ってる」「咲羅たんの足を引っ張ってる」だの、JURIの努力を踏みにじるようなコメント。
「どうしてこんなこと書けるんだよ」
彼女を知って、惹かれて数時間の俺でも彼女が頑張ってるのは伝わってきたのに。昔からsAkiのことを見守ってきたファンからしたら、JURIは邪魔な存在だった。
それが、とてつもなく悔しく感じた。
親、数少ない友人。肉親も他人もどうでも良かった俺に、唯一譲れないものができたんだ。
JURIを否定されるのは、自分自身を否定されているようで辛い。
自分ではどうしようもないから尚更。
歌がそんなに上手くなくたって、泣き虫だっていいじゃないか。彼女にはダンスという武器がある。
それがJURIなんだから。
読んでいるだけで心が折れそうになる辛辣なSNSの書き込み。
見なくていいのに、JURIちゃんは律儀に目を通している。公式動画で「SNS観てますよ」って言ってたし。「エゴサしちゃうんですよ」苦笑しながら。
傷ついて、苦しんで。それでも彼女は前を向く。
叩かれても叩かれても枯れない姿は、同期が送ってくれた
努力を続ける彼女に「そのままでいい」とはとても言えない。俺は彼女じゃない。
自分の努力を認めてほしい。
自己肯定感が恐ろしく低いのは、動画から伝わってきた。
勝手な想像だけど、JURIは「自分のため」というより「sAkiのため」にアイドルになったのではないだろうか。
出会ったばかりの俺になにがわかるんだって話だけど。「百合営業」って言われてるぐらい2人はべったりで、ニコイチって感じだし。
それがまた叩かれる火種になるわけだけども、sAkiの隣にいるJURIはいつだって楽しそうで輝きを放っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます