第54話 貴女の為の私3/5

「それでもいいの。さくちゃんはさくちゃんでしょ。もう自分を偽って生きるのやめようよ。強がって生きるの疲れたでしょ。完璧じゃなくていいんだよ。辛い時は辛いって言って、泣きたいときは泣いて」

 貴女がいつだって弱さを見せられるように、

「私がさくちゃんの居場所になるから」

「……っ」

 息を吞む音が聞こえ、彼女は黙ってしまった。

 どうしよう。やっぱり私じゃ、咲羅のこと説得できないのかな。ダメなのかな。

 貴女の苦しみを分けてもらえないほど、私は頼りない存在なのかな。


 情けなくて泣きそうになって俯いた私に、

「樹里と離れて、駿ちゃんから話を聞いてから、ずっと考えてた。私はどうしたいのかって」

 静かに、優しく再び咲羅が口を開いた。

「樹里が事務所を辞めて、私抜きで4人でアイドルやっていくなんて許せない。勝手に曽田と約束しちゃったことも許せない。腹が立って悔しかった。やっぱり私はいらないんじゃないかって思った」

 違う。違うよ。

 彼女の視界の端にすら映っていないかもしれないけど、首をぶんぶん横に振って否定する。

 あっ、ダメだ。ちゃんと言葉で伝えなきゃ。

「勝手に決めちゃって、約束しちゃってごめん。でも、泣き虫で陰キャな私が一歩踏み出せたのは、さくちゃんがいてくれたからなんだよ」

 きっと、私一人じゃ「新しいグループを」なんて言い出せなかった。たとえ琴美さんが背中を押してくれたとしても。


「さくちゃんなら悲しみも悔しさも、喜びも半分こにして分け合って生きていけるって信じてるから、貴女の想いに甘えてたから、突っ走っちゃった。ごめん」

 一人では抱えきれない痛みも、咲羅となら乗り越えられる。そうやってSorelleソレッレは活動してきたんだから。

 それでも、私は甘えすぎた。ちゃんと言葉にしていれば、すれ違うことなんてなかったのに。

 一人落ち込む私に、

「本当に樹里は私がほしい言葉をくれるね」

 先ほどよりも明るい声音で、けれど呟くように言われた言葉に、思わず横を見る。

 咲羅は少し俯いて、とても優しい顔で微笑んでいた。


「だから、私も素直になる。もう逃げない」

 膝の上に置いた拳を震わせながら、

「離れて漸くわかった。樹里には私の隣で笑っていてほしいって。面倒くさい私を愛してくれるのは、樹里しかいないって」

「そうだよ」

 咲羅の言葉が温もりとなってカラダ中を駆け巡る。あまりにも愛おしくって涙が溢れてくるけれど、まだ泣けない。

 彼女の横顔をじっと見つめて言葉を紡ぐ。

「重い愛情も、束縛が激しいところも、全部まとめて愛せるのは私だけなんだよ。気づくの遅すぎ」

 自信過剰と言われてもいい。だって、本当のことだから。


 私の言葉に顔を上げた咲羅は、私を見つめてきた。

 鳥のさえずりだけが聞こえる中、視線と視線がぶつかり合う。

 よく見れば、彼女の瞳にも薄っすら涙の膜が張っている。

「私は、私は――」

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