第54話 貴女の為の私4/5
零れ落ちた涙とともに吐き出された言葉は、
「樹里には私の隣でアイドルとして輝いてほしい。私を好きなままでいてほしい」
苦しそうに想いを伝えてくれた咲羅が愛おしくてたまらなくなって、立ち上がって彼女を抱きしめた。
「うん。あの日さくちゃんは『絶対なんてない』って言ったけど、約束する。私は絶対さくちゃんを離さない。ずっと愛してみせるから」
もう二度と手を離すもんか。
「今度こそ咲羅の全部、ちょうだいよ。次逃げ出したら、地の果てまで追っかけて
あふれ出した涙と共に力強く言えば、彼女は私の腰に手を回して抱きしめ返してくれた。
「にゃははっ、そうして。私またビビって逃げちゃうかもだから」
強くなるために心を捨てて闘ってきた、本当は泣き虫で寂しがりやな咲羅。
「大丈夫。私が守るから」
思い返せば、恋人になった日、誓ったじゃん。咲羅の心になるって。
私の覚悟が足りなくて傷つけてしまったけど、再スタートをきればいい。
「あーあ、こんなに痩せちゃってさ。やっぱり樹里には私がいないとダメだね」
にゃははとまた笑いながら、
「これからまた私と一緒に生きてくれる?」
私のお腹に顔をうずめた咲羅が、もぞもぞと顔を上げた。
「うん。死ぬまでニコイチでいよう」
久しぶりに見る彼女の向日葵みたいに明るい笑顔。心が熱くなって、どんどん涙が零れていく。まぁ、貴女が泣いているのに引っ張られてるのもあるんですけどね。
あ、待って。さっき「隣でアイドルしてほしい」「私抜きで4人でアイドルやっていくなんて許せない」って言ったよね?
「ねえさくちゃん、グループのことなんだけど――」
咲羅は私の顔を見上げたまま、
「今まで散々なことをしてきたけど、許されるなら、これからは誰に見られても恥ずかしくないように生きたい。樹里の言った通り、過去は変えられない。でも、変わりたい。だから、私は……みんなと一緒にアイドルをやって、自分らしく生きたい」
「さくちゃん」
自分の罪から目をそらして逃げ出した彼女が、自分自身を受け入れるのにどれほど勇気が必要だっただろう。
胸が苦しくなって顔を歪めた瞬間、
「それに、樹里以外の3人は華がないでしょ。私がいないとダメでしょ。仕方ないから入ってあげる」
ちょおおおい。今までの感情返せ。いい雰囲気だったのに自分でぶち壊すなよお。
いや、これでいいのか。咲羅らしくって。
「樹里の夢は私の夢だから」
ふんわりと優しく微笑んだ咲羅に返す言葉はただ一つ。
「そうだよ。咲羅はグループに必要なんだよ」
上から目線になっちゃったし、茶化されちゃった感満載だけど、咲羅は前を向いてくれただけじゃない。新し一歩を共に踏み出すと覚悟を決めてくれた。
それが嬉しくってたまらない。
って、まだ聞かなくちゃいけないことあるじゃん。
「アイドル辞める、って本気だったの?」
聞かれたくない質問かもしれない。でも私は貴女の全てを知りたいの。受け止めたいの。
「……辞めるつもりだったんだけどなあ。勝手に活動休止にされちゃってるけど。にゃは」
ちょっぴり寂しそうに笑う彼女に、
「どうして」
「もういいかなって。走り続けるの疲れちゃったのよねえ」
なにがあってもステージに立ち続けた咲羅の本音。そっか。疲れちゃったか。
それなら、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます