第49話 私たちは道具2/3

「知りませんよ」

 曽田さんの方をチラリと見て、冷たく答えた。駿ちゃんのあんな声初めて聞いた。

 なんか、反論を挟む余地なしって感じがする。

「君なら知ってると思ったんだけどね」

 流石曽田さん。空気を読まず、駿ちゃんをじっと見つめていった。

「……買い被りすぎですよ」

 ぴしゃりと「もう二度と聴いてくんな」とでもいうように、シャットアウト。

 あーこの感じ、珍しく駿ちゃん怒ってる。

 というか、松岡先生も加賀谷さんも怒ってるなあ。眉間に皺が寄りまくってるのよ。

 多分、私のことを『咲羅を説得するための道具』としか考えていないことを、怒ってくれてるんだと思う。

 勘はいい方なんだから、わかるよ。

 ありがとうございます。私の代わりに怒ってくれて。


「そうか」

 孤立無援。四面楚歌。今、曽田さんの味方をする人はここにいない。

「飼い犬に手を噛まれた、とはこういうことなんだろうね」

 ボソッと言ったけど、しっかり聞こえてますよ。人を『犬』呼ばわりしちゃダメですよ。

 ほら、先生たちの眉間の皺が更に深くなってる。

 でも貴方が落ち込んでるところ初めて見ました。ウルトラスーパーレアです。

「仕方ない」

 ため息をつきながら、

「取り敢えず今日は帰ってくれ。咲羅と話がつくまで、君たちのことは保留だ」

 頭をかきむしって、曽田さんは会議室を出ていった。


「なにあの態度。ムカつく」

 あ゛~と叫びながら足を組むアカ姉さんに

「まあまあ」

 翔ちゃんが「落ち着いてください」と声をかけている。

「ホント、私たちのことなんてどうでもいいのね。あの人」

 これまた珍しく、琴美さんがイラついた口調で言った。

 今日どんだけ地雷を踏みつけていったんだよ、曽田さん。あんたの印象最悪だよ。

「あの人にとって私たちは、咲羅が高みにいくための踏み台ですから……」

 わかっていたことだけど、あからさまに態度に出されるとヘコむなあ。

「どんな手を使っても手放したくないってことだろ」

「咲羅に異常なほど執着してっからねえ」

 松岡先生の言葉に、駿ちゃんが淡々と答えた。

 その通りです。あの人の咲羅に対する甘やかし方は異常だと思う。私も甘やかしていたけれど、比じゃない。レベルが違う。


「母親のこと重ねてんだろ」

 加賀谷さんが呆れたように言った。

 そうだ。咲羅のお母さんがアイドルをしていたころ、曽田さんがマネージャーをしていたんだった。

「そうだと思うよ。姉ちゃん、曽田さんに告白されたことがあるって言ってたし」

「マジか」

 揃って天井を見上げる松岡先生と加賀谷さん。

 わかります、その気持ち。はたから見たらぼんやりしてるように見えるんだろうけど、共感してますから。


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