第49話 私たちは道具1/3

 話をするなら早めにしたい、という私の我が儘で、目を真っ赤にしたまま駿ちゃんから曽田さんにアポをとってもらって、その日のうちに事務所で話し合いの場が設けられた。


 会議室に入ると、長方形の机のお誕生日席に座る曽田さん。その手前に、松岡先生と加賀谷かがやさんが向かい合って座っていた。一様に険しい顔をしている。いつも気味の悪い笑みを浮かべている曽田さんでさえも。


 席に着いた私たちに、

「咲羅と連絡がとれない」

 曽田さんは腕を組みながら言った。

 開口一番は咲羅のことなのね。あんたにとって私たちは二の次なんだね。やっぱり。

 わかっていたことだけど、少しショックである。

 今私はちょっとのことでダメージ受けちゃうんだから、正直なところ優しくしてほしい。労わってほしいです。

「私も連絡がつかないので……言われても」

 困る。

 事務所に来る前に【もう一度話がしたい】とメッセージを送ったけど、既読はついていない。

 傷ついた心を抱えて、勇気を振りしぼって送ったのにね。傷が深まっただけだった。

 ただの自傷行為でしかなかった。


「そうか」

 これまた珍しく残念そうに言ったかと思ったら、

「それなら仕方ない。君たちの話しをしようか」

「仕方ない?」

 ボソッと言ったアカ姉さんの方を見たら、片方の眉が釣り上がっていた。

 怒ってる。誰がどう見たってキレてる。

 そりゃそうだ。あんな言い方されたら腹が立つ。私も頭にきてるけど、今は怒るエネルギーなんてない。


「折角来てもらったところ悪いが、君たちの件は保留にさせてくれ」

「「は?」」

 きれいにアカ姉さんと琴美さんがハモった。私は唖然としちゃって声が出ず、駿ちゃんたちは「意味がわからない」って顔に書いてある。

「それは、俺たちが曽田さんがやってきたことをバラすからですか」

 駿ちゃんからの問いかけに、

「それだけじゃない」

 曽田さんは険しい顔をしたまま、

「4人が辞めるだけじゃなく、駿太や松岡、加賀谷も辞めるだなんてね。驚きだよ。全くどんな考えをしてるんだ」

 あー、そんな人を馬鹿にするような言い方をしたら、駿ちゃん大好きな恋人&モンペがキレますよ。

 ほら、2人とも鬼の形相です。


 気づいているはずなのに、曽田さんは話を続ける。

「それにねえ、咲羅はたった一言メッセージを送ってきただけなんだ。【アイドルを辞めます】と」

「え……」

 なにがあってもステージに立ち続けた彼女が、アイドルを辞める?

 ダメだよ。貴女はアイドル界のテッペンを獲れたのに。宝なのに。女王様なのに。

 どうでも良くなっちゃったの? 未練なんてないの?


 グルグル頭の中で考え続ける私を放置して、曽田さんは再び口を開いた。

「電話もメッセージも反応なし。咲羅がなにを考えて送ってきたのかはわからない。取り敢えず無期限活動休止と発表したけどね、辞めさせるわけにはいかない」

 なにその言い方。咲羅はあんたのオモチャじゃない。道具じゃないんだよ。意志を持った人間なんだよ。

「説得できるのは樹里ちゃんだけだと、僕は思うんだ」

 成程。今ここで私が辞めちゃったら、咲羅を説得できる人間がいなくなるってわけね。

「どうやって話せって言うんですか。居場所なんてわからないのに」

 グッと目に力を込めて睨みつける私を、ふっと鼻で笑って、

「駿太、君なら大体の予想はついてるんじゃないのかい」


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