第48話 仲間4
「あとさ、樹里ちゃん」
俯いていた私の横に片膝をついて、
「一人にしてごめんな」
駿ちゃんが言った。
「え?」
思ってもみなかった言葉に顔を上げた私の目に映ったのは、彼が目元を赤くして唇を震わせながらも微笑む姿だった。
いつだってキラキラアイドルスマイルを振りまいている駿ちゃんの初めて見せる顔に、胸がギュッと苦しくなった。
「咲羅との話し合い。2人には2人の世界があるから邪魔しない方がいい。そう思ってたけど、仕事の話なんだから、マネージャーである俺が付き添っているべきだった。そしたら……」
彼はそこで言葉を切った。でも、続けようとした言葉はわかる。「別れることはなかった」って言いたかったんでしょ。
それぐらいわかるよ。咲羅と物心ついたころから一緒だったように、駿ちゃんとも小さいころからずっと一緒だったんだもん。
だけどね、
「駿ちゃんがいてくれたとしても、結果は変わらなかったと思うの。彼女の弱さを理解したつもりになっていた私が悪いんだから」
駿ちゃんが自分を責める必要は全くないんだよ。
続けた言葉に、彼は悲しそうに微笑んだ。
「わかったよ。俺は自分を責めない。だから、樹里ちゃんも自分を責めないで」
「それは……」
「樹里ちゃんはよく頑張った」
言いよどむ私の頭を引き寄せてくれた琴美さんに、咲羅の温もりを重ねてしまって、胸がどうしようもないくらい苦しくなる。
「好きなだけ泣きな」
アカ姉さんが立ち上がって、後ろから頭を撫でてくれる。翔ちゃんは背中をトントン、と叩いてくれる。
みんなからの温もりが心に刺さったままの棘を溶かしていく。同時に、抑えていた言葉が溢れ出る。
「あんな、あんな別れ方したくなかったっ」
今まで積み重ねてきた思い出が、濁流のように頭の中を支配する。
朝起きたら咲羅がいて、私には勿体ないぐらい美しい指輪やブレスレットをくれて。
傍にいるのが当たり前だったのに、もう彼女はいない。
私は貴女がいなきゃ生きていけないのに。貴女は、ひとりでも生きていけるの?
無理だよね。知ってるよ。私たちはお互い依存し合って生きてきたんだから。
馬鹿、大馬鹿だよ。なんで逃げたの。あんだけ見えない鎖で私を繋ぎ止めていたくせに、どうして自分で切っちゃったの。
馬鹿、馬鹿、馬鹿。
頭の中でどれだけ彼女を責めても、心に刻まれた愛情は消えてくれない。
声をあげて小さい子どもみたいにわんわん泣く私に、みんなは黙っていつまでも寄り添ってくれた。
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