第48話 仲間3/4
「なら、問題なし」
「いやいやいや、問題ありまくりでは」
全く安心できないよ。ゼロからのスタートだよ。間違いなく地下からのスタートだよ。
否定する私に、
「いーじゃん。どうせなら、まっさらな状態でイチからスタートした方が面白いじゃん」
「うんうん、這い上がるのは得意だし」
「でしょ?」
微笑み合うアカ姉さんと琴美さん。
本当にいいの? うちの事務所みたいに最初から大きな箱でライブできるわけじゃない。握手会やチェキ会をして、少しずつファンを掴んでいくしかないのに。
苦労するのは目に見えているのに。
「どうしてそんなに前向きでいられるんですか」
落ち込む私を気遣ってくれている。ポジティブに考えようとしてくれている。
みんなの優しさがやっぱり苦しくて、痛くて、つい言わなくてもいいことを言ってしまった。
私の呟きで再び静まりかえるリビング。
「なに言ってんのよ」
アカ姉さんが眉間に皺を寄せて、怒りを口調ににじませながら言った。そうだった、この人は怒りの沸点が低めな人だった。
思わず肩をすくめてしまった私に投げかけられたのは、
「私たちに前を向けるきっかけをくれたのは貴女じゃない」
温かい言葉だった。
「そうですよ。さっきも言ったじゃないですか。新しい道を示してくれて感謝してるって。伝わってないなら何度でも言います。私たちのために動いてくれて、未来を照らしてくれて、ありがとうございます」
頭を下げた翔ちゃん。
「うん。私も2人と同じ。ずっと、あとどれくらいアイドルを続けられるんだろう。いつかは辞めなきゃいけない。そう考えてた私に、『女性アイドルに賞味期限なんてないって証明したい』力強く言ってくれて感謝してる。自分だけじゃ踏み出せなかった一歩を踏み出すきっかけをくれたんだもん」
痛かったはずの心が、みんなの言葉で癒されていく。
「私たちなら絶対アイドル界のテッペン獲れる。てか、獲ってみせるっての」
腕を組んでアカ姉さんがハッキリと言った。
悲しいけど、嬉しい。寂しいけれど、もう独りじゃない。
机の上にポタポタと涙の粒が落ちていく。
「俺たちもそうだよ。単に同情して、曽田さんを蹴落とそうとして樹里ちゃんに乗っかったわけじゃない。三春も加賀谷も、みーんな樹里ちゃんなら新しいアイドル像をつくれる。そう信じてるから、事務所を辞める覚悟を決めたんだよ」
この道の先、どんなことが待っているかなんて想像できない。
だけど、このメンバーなら、なんだって乗り越えられる。
相変わらずぼっかり心に穴が開いたままだけど、その穴を埋めるかのように希望の光が灯った。
ずっと傍にいると誓った咲羅はもういないけれど、昨日の今日で気持ちは切り替えられるわけもないけれど、傷を抱えながら歩いていくしかない。
みんなに新しい道を示したのは私だから。夢物語のままで終わらせちゃいけないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます