第51話 忘れられない人

3月1日(火)

 Sorelle結成日。

 SNSで、ファンはみんなお祝いしてくれてる。

 嬉しいなあ。

 けど、申し訳ない。

 ファンクラブを通してお礼のメッセージを言うことはできないから。


 未だに咲羅と連絡はとれない。

 どこにいるのか、なにをしているのか。全くわからない。

 生存を、確認できない。

 ちゃんとご飯食べてるのかな。私がいなくちゃ、あの子、お菓子でお腹を満たしちゃう子だから。

 心配。でも、なにもできない。

 そんな自分がもどかしくて、悔しくて、寂しくって。毎日咲羅と撮った写真を見返しては、泣いている。

 人の食生活を心配しているくせに、あの日以来まともに食事ができていない。駿ちゃんや琴美さんたちから心配されて差し入れもらうけど、やっぱり食べられない。

 いつになったら会えるのかな。

 辛いよ。独りぼっちの毎日は。

 寒いよ。貴女の温もりがない部屋は。

「前に進まなきゃ」

 口に出して自分に言い聞かせても、心はついていかない。


 学校では少しずつ平穏を取り戻している。みんな話しかけてくれるようになった。

 何事もなかったかのように時間は過ぎていく。

 でもね咲羅、貴女がいなくなってから何故だか世界がモノクロに感じるんだよ。つまらないんだよ。

 何気ない日々に彩りを与えてくれていたのは咲羅だったんだね。

 今、貴女の目に世界はどう映っていますか。

 もし私と同じなら嬉しいな、と思うなんて最低でしょうか。


 咲羅がいなくても世界は回っていく。

 すっかり変わってしまった私の世界。

 だけどね、私の居場所は貴女の隣なの。これだけは絶対に変わらないし、誰になにを言われても変えるつもりはない。


 だからさ、私はSorelleを守るために一人でも頑張ってるんだよ。

 明日から映画の撮影が始まるの。

 共演者さんたちはみんないい人ばっかり。監督さんも、厳しそうだけど理不尽に怒るような人じゃないっぽいから、なんとかやっていけそう。

 それでね、駿ちゃんと一緒にほぼ毎日、学校終わりにダンスレッスンに励んでるんだ。勿論ボイトレも。

 どう足掻あがいても寂しさは埋まらないけど、貴女が必ず戻ってきてくれると信じて、今まで通り練習を重ねてる。


 それに、彼女が戻ってこなくても私たちは進まなきゃいけない。

 新しいグループのために。

 咲羅が参加しようがしまいが、グループを結成する決意は変わらない。

 そりゃ貴女にはいてほしいよ。アカ姉さんや翔ちゃんに、アイドルに戻ってほしくて思いついたことだけど、私は、貴女と死ぬまでアイドルやりたいから決心したの。

 新しい一歩を踏み出すことを。

 説得は失敗しちゃったから、咲羅のことは諦めた方がいいのかもしれない。

 だけど、貴女が我が儘女王様だったように、私も我が儘お姫様だからさ、諦めない。


 ワイドショーでは、このまま咲羅が退社してしまうんじゃないかって、私たちのことをよく知りもしないコメンテーターたちが騒いでる。

「外野の言葉は気にしない」

 咲羅が何度も言ってくれた言葉。


 この暗闇がまだまだ続くとしても、もう一度咲羅と支え合って生きていくために、私は貴女を探し続けるからね。

 翔ちゃんが自殺を図ったとき、駿ちゃんと約束したから。

「なにがあっても貴女を見捨てない」って。


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