第48話 仲間1/4

2月20日(日)

 一晩中泣いていたら、いつの間にか朝になっていた。

 よろよろと立ち上がって洗面所の鏡をじっと見つめる。

 目はパンパンに腫れているし、赤くなってるし、とてもじゃないけど人見せられる顔じゃない。

 でも、私にはやらなきゃいけないことがある。

 咲羅の無期限活動休止の発表を受けて、朝から大騒ぎのワイドショーを眺めながら、アカ姉さんたちに連絡をとった。


 ピンポーン。

 インターホンが鳴り玄関のドアを開けると、アカ姉さん、翔ちゃん、琴美さん、駿ちゃんが揃っていた。

「すみません。わざわざ……」

「いや、樹里ちゃんの部屋にしようって言ったの私だし。謝らないで」

 琴美さんが笑いながら言ったけど、どこか陰のある笑顔だった。

 みんな、事務所の発表を知っているだろうから、なにがあったのか大体察しがついたてるんだろうな。暗い雰囲気が漂っている。

「てか、いくら寮とはいえ、折角モニターついてんだから誰が来たのか確認してから開けなよ」

 いつも通りアカ姉さんは強めな口調だけど、目はとっても優しい。

「にゃはは、本当にそれな。んじゃあ、お邪魔しまーす!」

 明るい口調で駿ちゃんは靴を脱ぎ始めた。

「どうぞ」

 みんなも同じように脱ぎ始めたから、私は先にリビングへと戻る。

 何故だか、みんなの優しさが酷く痛かった。


 リビングのテーブルの椅子は4脚しかない。駿ちゃんは私が言う前に「俺っちはソファー」と、ボスンっと勢いよく座ってくれた。

 私はみんなに飲み物を淹れるために戸棚を開けた。

 そこには、咲羅が持ち込んだ食器が並んでいて。ズキリと痛む胸に気づかないふりをしながら、人数分のコップを取り出して静かに棚を閉じた。


「ココアですみません、どうぞ」

「全然いいよ。ありがとう」

 琴美さんは柔らかく微笑んで言った。

 インスタントのコーヒーもあるけど、咲羅のために買ったそれを使う気にはなれなかった。

「あー結構騒がれてんねえ、咲羅」

 つけっぱなしだったテレビを観ながら、

「そりゃそうか。事務所が発表しただけで、本人からのコメントはなし。詳細も一切なしなんだもん。いろんな憶測飛び交っちゃうわなあ」

 連絡取れないし。

 呟くように言った駿ちゃんの言葉が、鋭く私の心に突き刺さった。

 今、彼女はどこにいるのだろうか。お互いの位置がわかるように、と咲羅に入れられたGPSアプリは仕事をしていない。

 位置情報をオフにしているのか、それとも電源を切っているのか。私にはわからない。

 空いていた椅子に座ると、向かい側に座ったアカ姉さんが口を開いた。


「単刀直入に聞くね。咲羅が行方知れずってことは」

「……はい、すみません。説得できませんでした」

 いつの間にかテレビは消されていて、静寂に包まれる。

 少し間を置いて、

「絶対説得するって言ったよね」

「ちょっ、アカ姉さん――」

「言ったよね」

 責めるような口調のアカ姉さんを翔ちゃんが止めようとしたけれど、彼女は私の目を真っすぐ見つめて話し続けた。

 だけど、言葉とは裏腹にその瞳は優しかった。目は口程に物を言うってね。上手いこと言うよ、昔の人は。

 そんな余計なことを考えてしまうのは、現実から目をそらしたいからだと思う。

 でもさ、私に気をつかないながら向き合ってくれるみんなのために、逃げ、は許されない。


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