第46話 誰も見捨てない5
「全く君たちは……」
曽田さんは瞼を閉じて、ため息をつきながら背もたれにもたれた。
「グループ結成、認めてくれますよね」
ここまでして否定されたら、私にはもう手札がない。本当に辞めるしかない。
そうしたら咲羅はついてきてくれない。彼女を失うことになるかもしれない。
だとしても、私たちに逃げ道は残されていない。
逃げる気もない。
「わかった」
腕を組み、私を真っすぐ見つめた曽田さんは呟くように言った。
「……っ」
嬉しい、よりも安堵の気持ちが先にきて、知らぬ間に血が出そうなほど握りしめていた拳の力が抜ける。
「ただし、条件がある」
「なんですか」
往生際が悪い。条件ってなんだよ。素直に認めろよ。
「咲羅を必ず説得すること。彼女が参加しないのなら、グループは結成させない。君たちには辞めてもらう」
絶対咲羅を説得してみせる、自身はあるけど
「写真とボイスレコーダーの内容を流失させても、ですか」
「そうだ」
チッ。シンプルにムカつく。なんでそんな強気でいられるんだよ。
「これが流出したら、あんたの人生終わるんだよ」
ついに「あんた」って言ってしまったけど、それをツッコむ人は誰もいない。
「それでも、だ。必ず咲羅を説得しなさい。君たちだけじゃやっていけないことぐらい、わかってるだろう」
話はもう終わった、と言わんばかりに、彼は立ち上がった。
「君たちの覚悟はよく伝わってきたよ。だからこそ、僕も自分の人生を賭ける」
左様ですか。
そう言って曽田さんは足早に会議室を出ていった。
「はああああああ」
緊張が解けて机に突っ伏する私の肩を
「よく頑張った」
駿ちゃんが優しく叩く。
「緊張したね」
「うん」
アカ姉さんも翔ちゃんも、取り敢えずホッとしたのかため息をつく声が聞こえる。
「取り敢えず、曽田さんは説得できたのかな」
「うん。条件つきだけどね」
琴美さんに目を向けると、苦笑しながら
「咲羅の説得、頼んだよ」
私の肩にそっと手を置いた。
「はい。絶対、絶対に説得してみせます」
「うん。あの子は樹里ちゃんしか説得できないからさ……お願いね」
そうだ。まだ気を抜いちゃいけない。最大の難関が待ち構えているんだ。
「はい」
カラダを起こして、アカ姉さんたちに向き合う。
「ちゃんと自分の想いを伝えてきます。悔いが残らないように」
咲羅とは一人で話し合うことになるけれど、私は一人じゃない。ここにいるみんなが味方だ。傍にいなくても、心の中で一緒に闘ってくれる。
もし説得できなかったら、なんて考えない。ごちゃごちゃ考えるのは苦手だから。
そのときはそのときだ。潔く全員で事務所を辞めて、四月一日さんたちと一緒に再スタートを切るだけ。
自分の道は自分で切り開く。
咲羅が今まで見せてくれた姿を、私もなぞるんだ。
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