第45話 バレンタイン3/4

 キッチンに戻り、お湯を沸かす。その間に食器を片付けようとリビングに戻ったら、

「あれ?」

 咲羅がいない。一瞬目を離した隙にどっか行くなんて、本当に動物みたいだねねえ。馬鹿にしてないから、はい。

 2人分の食器を水に浸して、コーヒーの粉を入れたマグカップにお湯を注ぐ。咲羅はブラック、私は牛乳8割のカフェオレです。苦いの飲めないので。


「よしっ」

 まずは熱々の飲み物を。次に咲羅が楽しみにしていたフォンダンショコラをテーブルに運んでいたら、ガチャリとリビングのドアが開いた。

「さくちゃん、どこに行ってたの?」

「んにゅ、自分の部屋」

 後ろてでドアを締めながら言った。動きが怪しすぎる。片手を後ろに回したままだし。

 多分、バレンタインのチョコなんだろうな。今はツッコまないであげよう。

「そっか。じゃあ、食べよっか」

「やっぴー」

 ルンルンと鼻歌を歌ってるとこ悪いけどさ、「やっぴー」とは? あんた今日言動が謎すぎるよ……。ツッコむのも疲れました。

 その点、芸人さんって凄いんだなあ。

 心の中で敬意を表しながら、席についた私なのでした。


「んっまっ!」

 両手を頬に当てて、「頬っぺたがとろけちゃう」と目を細めて笑う咲羅に

「喜んでもらえてなにより」

 私も頬が緩んでる自覚あります。別にいいでしょ。誰も見てないんだから。

「もうなくなっちゃった……」

「はっや。もう食べ終わったの」

 私のはまだ半分ぐらい残ってるのに。三口ぐらいで食べてない? ちゃんと味わって食べましたか。

「だって美味しかったんだもん」

 そう言われたらなにも言えないじゃーん。仕方ないなあ。

「はい、私の食べかけで良ければあげるよ」

「えっ、いいの!?」

 大きな瞳が更に大きく見開かれて、星でも輝いてるんじゃないかってくらいキラキラしてる。

「いいよ。お試しで作ったときに食べたから」

 そうなのです。完璧に作るために結構な量作ったんだよね。失敗しまくったんだよね。

「ありがとう!」

 まるで壊れやすいものを扱うようにお皿を受け取ったと思ったら、一口で食べちゃった。

 わんぱく小僧ですか、あなたは。

「んふふ、美味しかったあ」

 んーと両手を伸ばしながら、幸せそうに笑う咲羅。一瞬で食べられちゃったけど、一生懸命作って良かったよ。


「よっし。今度は私の番ね」

 向日葵みたいに明るく笑いながら彼女が取り出したのは、指輪のときと同じ水色の箱。これはもしかしなくても、またまた超高級ブランドのヤツでは!? 絶対チョコじゃないじゃん。オーマイガー。


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