第45話 バレンタイン2/4

「にゃはは。あ、ちなみにこれ動画だから」

「動画なんかーい」

 スマホの画面をタップしながら言われました。多分、私のツッコミもきっちり録られてると思います。はい。

 それアップするのはやめてね。恥ずかしいから。

「動画はアップしないよー」

 私の考えを見透かしたのか、口角を上げながら

「チューのとこだけスクショして載っけるから安心して」

「安心できるかっ」

 マジで今日ツッコんでばっかりだな。なんでだっ。

 普通バレンタインって、もっとこーなんていうの、甘々な雰囲気なんじゃないの。

 聖なるバレンタインにふざけまくってるバカップル、世界中見渡したって私たちぐらいでしょ。


「はあ……」

 んーまあ、私たちらしくっていいか。騒がしくて、ボケまくって、ツッコミまくって。いつも通りの変わらない日常。

 けれど、これが当たり前じゃないってわかってるよ。同じ性だからね。幼馴染から恋人に昇格して、アイドルになって相棒になって。

 全く当たり前じゃない。だからこそ、こんな馬鹿みたいな日常を愛さなきゃね。

 私が幸せをかみしめている間に、咲羅はSNSに文章を打ち込んで、

「ほい、アップしました」

「早っ」

 おいおい、この間駿ちゃんに「SNSに投稿する前に俺っちに連絡してね」って言われたばっかじゃんかあ。早速約束破ってどうすんのよ。あなた「うん」って返事してたじゃん。

 ごめんねえ、駿ちゃん。

 咲羅はニコニコ笑いながらSNSを見せてきた。そこに表示されていたのは、【バレンタインということで、JURIがフォンダンショコラを作ってくれました! 羨ましいだろ】というファンを煽る本文と、2枚の写真。

「あーもうっ、ホントにチューの写真アップしてんじゃん」

「にゃはは」

 笑って誤魔化そうとするな。そんでもって、ファンにマウントとるな。

 投稿を消そうと思っても、残念ながら猛烈な勢いで拡散されてるから手遅れ。コメントも凄い勢いで増えてるし。

 マジで駿ちゃんごめん。私のせいじゃありません。咲羅の犯行です。


「ではでは、早速いただきますかっ」

「待て待て待て」

「にゃに」

 可愛く、わかりやすく不満げな表情をしてもダメです。

「着替えてきなよ。それに、ご飯食べてからにしよ。今日はビーフシチュー作ったんだか――」

「なぬっ、わかった。着替えてくる」

 ドタバタとリビングを出ていった咲羅。あんた、チョコの匂いには気づいたのに、ビーフシチューには気づかなかったのね。嗅覚が鋭いんだか鈍いんだが、よくわからないなあ。

 珍しく子どもっぽい彼女に愛おしさを覚えながら、私はビーフシチューを温め直した。


「にゃはーお腹いっぱい!」

 お腹をさすりながら、

「大満足ぅ」

 ニコニコ幸せそうに笑ってくれる咲羅に、

「お腹いっぱいかあ。じゃあ、デザートは明日にす――」

「今食べます。お腹空いてます。デザートは別腹です」

 急な敬語と一瞬にして矛盾する言動。可愛いねえ。愛おしいねえ。

 急に瞳をギラつかせちゃってさ。

「はいはい、持ってくるから待ってて」

「にゃっす」

 素直でよろしい。


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