第45話 バレンタイン1/4
「ただいまあ」
「おかえり」
学校から帰ってきた咲羅をキッチンで出迎える。いつもは玄関までお出迎えに行くんですけどね、今はちょっと手が離せない。
荷物をソファーの横に置きながら、スンスンと鼻を鳴らした彼女は
「なんか甘い匂いがする!」
「にゃは、ワンちゃんみたい」
「なにおーう。私はアイドル界の女王様だぞっ」
急に威張るな。苦笑しつつも、頬を膨らませてぷうたれる彼女が可愛くって仕方ない。
さてさて、つい茶化してしまったけれど、正解なので
「ジャジャジャジャーン」
甘い匂いの原因が乗ったお皿を差し出す。
翔ちゃんたちと別れて、超特急で家に帰って作ったのです。ギリギリ間に合って良かった。
「にゃ!?」
あんたは猫か。
「これってもしかして、フォンダンショコラ!?」
「にゃっすにゃっす」
おっと、私もつい咲羅の口癖で返事をしてしまった。人のこと言えねえ。
「待って待って。ヤバっ。いつの間にこんなの作れるようになったの。え、ヤバ。嬉しすぎる! え、なに、料理の腕上がりすぎじゃない!?」
息継ぎなしで早口で喋り倒す咲羅。こんなとこでアイドルの才能を無駄遣いしないでもらってもいいかな。
「落ち着いてよ、さくちゃん」
「落ち着けるかっ」
怒られました。目がギラギラしちゃってます。ホントに動物みたいだから、やめなさい。
「恋人がこんな素敵なバレンタインプレゼントくれるなんてえ、嬉しすぎて泣いちゃうよ」
えーん、と泣く真似をする咲羅。可愛すぎか。
「大げさだなあ」
「大げさじゃないっ」
また怒られました。今日、怒りの沸点低すぎない?
「これ、写真撮ってSNSにアップしてもいい?」
「ん、いいよ」
コートのポケットからスマホを取り出し、ってあんたまだコート着てたのか。せめてコート脱いできなさいよ。
「はい、撮るよー」
「ちょっ……私も入るの」
「当たり前でしょ」
いやいやいや、料理の写真だけ撮ればいいじゃん。え、世間では一般的なの? 当たり前なの? うーん。
悩んでいる間に咲羅は私の腰を引き寄せて、両手でお皿を持つ私を画角に入れて
「さーん、にー、にゃっす!」
画面をタップしてパシャパシャパシャパシャ……おい、連写してるじゃん。1枚でいいでしょうが。
あと、そのかけ声初めて聞いたわ。ツッコミどころ多すぎて頭がついていきません。無理。
「もう一回撮りまーす」
「はい? さっきので十分でしょ」
連写してたんだから。
「にゃはは」
笑って再びスマホを構える。ちょい、私の言葉を受け流さないでもらってもいいなな。
「はい、さーん、にー、にゃっす!」
変なかけ声とともにボタンが押されると思ったら、咲羅の顔がぐっと近づいてきて。
チュっ。
「ちょおおおおおいっ」
「てへ」
「てへっ、じゃなあああい!」
騒がしいなあ、という文句はスルーさせていただきます。さっきのお返しだーい。
「なにチューしてんの!?」
「いいじゃん。バレンタインなんだし」
「そうか、そうだよねえ……って納得すると思ったか」
雰囲気で流されませんよ、私は。
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