第38話 脅す材料5/6

「あ、ちょっと待って」

 話が終わり、帰り支度を始めた私を駿ちゃんが止めた。

「どうしたの」

 まだなにか情報があるのだろうか。

 不思議に思っていると、彼は四月一日わたぬきさんに目配せをして

「曽田さんは関係ないんだけど……いや、俺っちの予想では関係してるんだけど」

「なにそれ」

 珍しく歯切れが悪い。だから、なんの話よ。


「樹里ちゃん、父親の件どうなった?」

「あぁ、その話ですか」

 成程ね。あの人の話か。

「咲羅とちゃんと話しました。もうこれ以上関わらなくていいよって」

「そっか。咲羅は納得した感じ?」

「はい。不満げでしたけど、私がお願いしたら、約束してくれました」

 ちょっとごねられたけどね。

「それなら良かった」

 うん、丸く収まったから問題なし。あれ以降、彼女が私の父親の家の周辺をうろついているって話は聞いてないし。

 でも、なんか引っかかる。さっきの駿ちゃんの歯切れの悪さはなに?


「あのさあ、樹里ちゃん」

「んにゅ?」

 駿ちゃんが頭をポリポリ掻きながら、

「咲羅って、君のことになると猪突猛進ガールになるというか、万難ばんなんはいして行動するとこあるじゃん」

「ありますね」

 父親のことを監視して、殺す計画をひっそり立てていた彼女。私のためなら、自分の手を汚すことも厭わない彼女。

 盲目的な愛、っていうのかなあ。ちょっとやりすぎなところがあるけど、私は嫌いじゃない。

 むしろ逆。それだけ私のことを大切に想っていてくれてるってことだから。


「言いにくいんだけど」

 咲羅に思いをせていた私の目を真っすぐ見つめて、

「咲羅、君の私物に盗聴器やら監視カメラとかを仕掛けてるっぽいんだよね」

「……は?」

 嘘でしょ。あの子がそんなこと、

「するわけ……あるか」

「うん」

 自分で言うのは照れくさいけれど、咲羅は私のことが大好きだ。元フィオの華那ちゃんと話したり出かけたりしたら凄い嫉妬されたし、今でも他の人と話していたら嫉妬の視線を向けられる。

「あっ、だからバッグ置いてこいって言ったの」

「そういうこと」

 眉をハの字にして、困ったような表情で駿ちゃんは言った。

 おーん、そっか。たしかに、あのクマのストラップ、変に重かったし。中身を調べらたなにかしら出てくるんだろうなあ。

「ほーん」

「驚かないんだな」

「いや、ビックリしてますよ。ちゃんと」

「そうは見えないけど」

 んー。四月一日さんの指摘は、あながち間違いじゃないかも。

「まぁ……想定内というか、咲羅ならやりかねないというか」

 彼女の愛は重いから。それに、私はそのクソ思い愛が、愛おしいくってたまらないのよ。

 普通は怒るべきだし、喧嘩に発展する事案だと思う。盗聴器とか監視カメラとか、私のプライバシーはどこへ? って感じだし。

 でもね、

「咲羅も四月一日さんたちも、私の愛のデカさ、なめてますよ」

 みんなが想像する以上に、咲羅に負けないぐらい、私は彼女のことを愛している。

 重い愛、ばっちこいだ。メンヘラでもなんでもかかってこい。

 全部受け止めてやるから。


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