第38話 脅す材料4/6

「そんで、これをどう使うつもり?」

 机の上に広げられた写真を整理しながら、四月一日さんが聞いてきた。これは、私が答えるべきか? そう思っていたら駿ちゃんが、

「にゃっす。それはねえ」

 全部言ってくれた。アカ姉さんや翔ちゃん、琴美さん、咲羅と新しいアイドルグループをつくりたいことを。ものすっごくわかりやすく。順序立てて。

 はらわたが煮えくり返ってる今の私が説明したら、絶対支離滅裂になってた。それをわかって、駿ちゃんは言ってくれたんだろうな。ありがとう。

 これだけ情報を集めてくれた、四月一日さんも。本当にありがとうございます。


「成程、ね。そんなら全部有効活用してくれよな」

「勿論」

 写真とボイスレコーダーを受け取りながら、駿ちゃんは口角を上げた。

 おー、初めて見るよ。貴方の悪い顔。

「そんでさ、もし断られたら事務所辞めちまえ」

「はっ!?」

 待った待った待った、なんでそうなる。今の会話の流れでなんでそうなった。

「なんでよ、辞めたらアイドル続けられないじゃん」

「続けられるよ」

「え?」

 なに、駿ちゃんもそっち側なの。どういうこと。

 彼らは視線を交わして頷いた。ちょい、私をおいていくな。勝手に話を進めるな。無言で会話が通じてるのはなんでだ。いや、グループを組んでたんだから当たり前か? 私も咲羅と無言で話通じることあるし。


「樹里ちゃん」

「はっ」

 ごめん駿ちゃん、思考がまた明後日の方向へ飛んでいってた。

「あのね、個人事務所、っていう手があんのよ」

「あー、成程。個人事務所ね……はい?」

 やっぱり理解不能だわ。どうして個人事務所の話が出てくる。

「俺が社長になってやっからさ」

 ニヤっと笑いながら、四月一日さんが言った。いや、あんたさ

「探偵事務所はどうするんですか」

「そろそろ飽きてきたとこだし、廃業してもいいかなって」

 適当だなあ、おい。

「助手さんは?」

 四月一日さんの、たった一人の助手。前にも思ったけど、よく2人で探偵やっていけてるな。凄いな。

「事務所のスタッフとして雇えばいいだろ」

「じゃあ、お金は?」

 矢継ぎ早に質問して申し訳ない。でも、これは大事なことだから。

 頭をポリポリ掻きながら、

「俺んとこさ、ちょっと口に出すのもはばかられる内容の依頼が多いのよ」

「つまり、お金はたんまりあるってこと」

 駿ちゃんが彼の言葉を引き継いで言った。

 世には出せない内容の依頼を引き受ける代わりに、その報酬はバカ高い。だから、お金はたんまりある、と。


「左様ですかぁ」

「おうよ」

 頷いた四月一日さんは、

「だから、安心して曽田を脅してこい。やらかしたら、隣のヤツがなんとかしてくれる。俺だって力になる」

「なんにも気にせず暴れていいかんね。にゃはは」

 2人とも笑って、私の背中を押してくれた。そんなバカなこと考えるな、って引き留められてもおかしくないのに。全力で守ろうとしてくれている。

 嬉しい。胸が温かくなって、泣きたくなってきた。

「ちょいちょい、泣くのはまだ早えぞ」

「そうだよ。この後、翔ちゃんを説得しに行くんでしょ。曽田さんも、咲羅も」

 零れそうになる涙をグッとこらえて、

「うん。まだ泣かないよ。頑張って、みんなに私の想いを伝えてくる」

「よし、その意気だ」

「にゃっすにゃっす」

 前を向く。


 咲羅は今まで自分の我がままを通してきた女王様。曽田さんは、咲羅を頂点に立たせるためなら犠牲はいとわない。

 翔ちゃんは、プレッシャーに押しつぶされて、自分で命を絶とうとした。

 この3人を私が説得できるのか。正直不安だった。アカ姉さんは、回答保留中だし。

 だけど、四の五の言ってられない。さいは投げられた。

 これまで咲羅を支えることだけを、彼女の隣に立っても恥ずかしくないアイドルになることだけを考えてきた。

 今回は、私が我が儘を言う番だ。意見を押し通す番だ。

「頑張れ」

 肩をポンっと叩く駿ちゃん。私たちを見て静かに頷く四月一日さん。

 ありがとう。私、頑張る。絶対に、新しいグループをつくってみせる。

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