第38話 脅す材料3/6

「良かったんですか。茜さんの人生も翔さんの人生も滅茶苦茶になっちゃいましたけど」

「そうだね、ちょっと可哀想だったかな。でも、彼女たちは咲羅の踏み台なんだよ。今回は、咲羅が先へ進む為の試練、ってとこかな」

「踏み台って……」


 曽田さんと、男性の会話。内容からして、相手はゴシップ記者の大森なんだろう。


「咲羅はどんな状態でもステージに立ち続けている。彼女こそが本当のアイドルだよ。まだ16歳だ。あの子は無限の可能性を秘めてるんだ。それに、茜は僕の好みの顔じゃないしね」


 それはわかっていた。アカ姉さんが曽田さんの好みの顔じゃないことぐらい。ただ、それをハッキリ言われてしまうと、推していた身としてはメンタルにくる。

 その後も会話は続き、


「だったら、翔ちゃんはどうなんです? 少なくとも顔は好みでしょ」

「そうだね。顔だけは好みだね」

「それじゃあ――」

「でも、さっき言った通り彼女をセンターにしたのは咲羅のためだ。センターの座を奪われた咲羅がどうなるか、更に華を開かせられるか。言ってしまえば、実験だね」


 は? なにそれ。

「最低」

 会話の合間に呟けば、

「曽田さんはそういう人なんだよ。咲羅のためなら、他の子が潰れても構わない」

 眉間を揉みながら駿ちゃんがボソっと言った。

 うん、わかってる……つもりだった。伊達に咲羅と何年も一緒にいたわけじゃない。傍で見守ってきたわけじゃない。

 でも、ここまでとは思ってなかった。


「あの樹里って子、あの子は曽田さんの好みの顔じゃないでしょ。アイドルにしたのはなんでですか」

「彼女もいい咲羅の踏み台になってくれるからだよ。それに彼女だって逸材だ。振りも歌もすぐに覚えるだけではなく、全員の振り付けを記憶している。そして、彼女がいることで咲羅がより高みに行ける」


 今更褒めてもらったって、全く嬉しくない。踏み台呼ばわりされてるし。


「僕はね、咲羅をアイドルの頂点に立たせて、唯一無二のアイドルにしたいんだ」


 これが、曽田さんの本音。これ以外なにも考えていない。他のメンバーはどうでもいい。咲羅さえ、華開いてくれれば、死のうが枯れようが、辞めていこうが、どうだっていいんだ。

「はあ……」

 ため息をついてソファにカラダを預けた。聴いてただけなのに、変に体力消耗したわ。

「よくこの音声手に入れたね」

 駿ちゃんが真剣な口調で尋ねる。

「俺の話術よ。大森はさ、曽田との会話全部録音してたんだよね」

「なにそれ」

 思わず鋭い声が出てしまった。

「ホント、なにそれって感じでしょ。いつか利用できる日がくるかもしれない、って考えてたんだってさ」

 そんな私に優しく微笑みつつも、呆れたような口調で四月一日さんは言った。

「あいつも、人の心は持ってたわけだなあ。散々あることないこと書いてきて、今更って感じもすっけど」

 今更すぎる。大森は、アカ姉さんを貶めただけじゃなく、過去にも咲羅に関してデマ記事を書きまくってきた。火のない所に煙を立たせて、少女たちを傷つけてきた。

 罪は重いよ。今回協力してくれたからって、許せるわけがない。


「許せないよなあ」

 私の考えを見透かしたかのように呟くと、

「でも、アイツがこれを提供してくれたおかげで、曽田を脅す材料が増えた」

 真っすぐ私の目を見つめてきた。

「そうだね。そうだよね」

 曽田さんにとっては、飼い犬に手を嚙まれて、手のひら返しされた、って感じだろうな。可哀想に。

 同情なんかしてやんないけど。


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