第44話 Answer2/5
「およよ、アカ姉さん!?」
「久しぶり……っていうか、昨日ぶり」
アカ姉さんがいるなんて聞いてないよ。言っておいてよ、翔ちゃん。
戸惑いながら彼女たちのの向かい側に座ると、
「翔ちゃん、声のトーンもうちょい抑えようね」
「すみません」
アカ姉さんにたしなめられた翔ちゃんは、シュンとなって頭を下げた。
「いやいや、大丈夫だよ」
「いやいやいや、目立つから」
ごもっともです。かなり目立ってました。出る直前に玄関に置いていたキャップを被っておいて良かったです。多分、私がSorelleのJURIだとは気づかれてない……はず。
「お待たせしちゃってすみません」
「大丈夫。急いで来てくれたでしょ。というか、学校は?」
首を傾げるアカ姉さん。
「あのですね、シンプルに寝過ごしました」
「そんなことだろうと思った。仕方ないよね、昨日あんなに全力でパフォーマンスしたんだから」
えーん、アカ姉さんが優しい。フィオにいる間はずっとトゲトゲしていて近寄りがたい存在だったのに、この1年で大分変ったなあ。
「すっぴんだし、寝ぐせついてるよ」
「にゃはは」
苦笑するしかない。バッチリメイクしたアカ姉さんと、控えめにメイクした翔ちゃん。私もメイクしてくれば良かったな。でも、そしたらもっと待たせてたな。うん。
「それで、今日呼ばれたのは――」
「昨日のライブ、凄く良かったよ」
取り敢えず店員さんにドリンクバーを注文して、例のごとくココアを淹れて戻って来た私が尋ねると、アカ姉さんは微笑みながらそう言った。
「研究生になってからライブを見学させてもらう機会なんてなかったから、久しぶりにものすっごく楽しかったし、心が震えた。途中からはなんでか泣いちゃったよ」
彼女の言葉に、胸がやんわりと温かくなる。
アカ姉さんが泣いたのは、アイドル時代のことを思い出したからだろうか。それとも、私たちのパフォーマンスに感動したからどうか。
どちらにしろ、
「良かったです」
私の想いが届いてくれたのなら、なんだっていい。
「私も、楽しかったです」
私と同じようにココアを飲みながら、
「昨日帰った後、興奮が冷めなくってSorelleさんの動画全部観ちゃいました」
「翔ちゃん」
この間は「眩しくて観れない」そう言っていたのに、観てくれたんだね。
「嬉しいよ、ありがとうね」
「お礼を言うのはこちらの方です」
ジーンと胸を熱くしながら素直にお礼を言えば、
「これまでRose時代のことを思い出すこと避けてきたんですけど、希望や夢を抱いてデビューしたあの頃のことを思い出しちゃいました」
センターに立つのが、ファンの前に立つのが辛くてアイドルを辞めてしまった彼女がこんなことを言ってくれるなんて。
「それに、あんなに楽しそうな咲羅さん初めて観ました。Roseのときは、笑っていてもどこか影を感じてましたから」
「そうだよね」
翔ちゃんと咲羅の活動時期は半年ぐらいしか被っていない。その中で見せた咲羅の笑顔は、偽物ばかりだったはず。
「咲羅さんが心の底から笑顔になれたのは、樹里さんが隣にいるからなんですね」
「そう……かなあ」
多分そうなんだろうけど、正直自信ない。いろんな重圧から解放されて、我が儘に気ままに羽ばたいているだけだと思うし。
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