第44話 Answer3/5

「そうだよ」

 弱気な私に、アカ姉さんは力強く言った。

「元々あの子が強くなれたのは、貴女が傍で支え続けた結果なんだよ。グループのためとかじゃなく、貴女が推してくれていたから、いろんな困難を乗り越えられた」

 たった11歳でセンターを任され、矢面に立たされた咲羅。

「私はただ、傷つけられていく咲羅が見ていられなくて――」

「それでも、貴女が傍にいなかったら、咲羅はもうこの世界にいなかったと思う」

 この世界。それは、きっと「生きていなかった」ってことだと思う。自傷行為に走ったことあったし。

 あの頃の咲羅にはハラハラさせられっぱなしだった。いつか消えちゃうんじゃないかって。

「まぁ、貴女や曽田さんが甘やかしたから我が儘女王様になっちゃんだろうけど」

「ごもっともです」

 言い返せません。さっき丸くなったって言ったけど、やっぱりアカ姉さんは辛辣しんらつだ。

 この方がアカ姉さんらしくっていいかも。なんて、私がアカ姉さんらしさを決めちゃいけないよね。

 アイドルはファンから勝手にイメージを押しつけられる。それでも、自分らしさを決めるのは自分でなくっちゃ。


「って、今日はこんなことを言うために呼んだわけじゃないのよ」

 一口コーヒーを飲んだアカ姉さんは、

「貴女が来るまでに、翔ちゃんと2人で話し合ったの。貴女がつくりたいと言った、アイドルグループのことを」

 真剣な眼差しでつむがれた言葉に、思わず背筋を伸ばす。

「単刀直入に言うね。私たちの答えは」

 急に胸がドキドキしてきて、手汗かいてきた。

 どうか、どうか彼女たちがyesと言ってくれますように。私を信じて、アイドルの道に戻ってきてくれますように。

「樹里ちゃんたちと一緒に、アイドルやりたい」

 呼吸するのも忘れて、2人を見つめてしまう。え、ホントに?


「ホントです」

 心の声が漏れていたようです。翔ちゃんは、私を射抜かんばかりに真っすぐな目をしながらハッキリ言った。

「どうしてそう思ってくれたんですか」

 望んでいたはずの言葉だけど、そう聞かずにはいられない。

 理由が、知りたい。


「もう二度とアイドルなんてやるもんか、ライブに行く直前までそう思っていたし、正直ライブに行くのも嫌でした。それでも、折角樹里さんが誘ってくれたんだからって行くことにしたんです」

 嫌だったのか。なら、どうして心変わりしたんだろう。彼女の決意は、並大抵のものじゃなかったはずだ。

 傷つけた側は覚えていなくても、傷つけられた側はいつまでも覚えている。鋭い言葉のナイフで心をズタズタに引き裂かれたことを。

「そしたら、あっという間に2人の世界に引き込まれて。咲羅さんは世間が言っている通り完璧な『女王様』でした。樹里さんも、動画では「私は平凡」「歌が下手」って自虐してますけど、完璧でした。キラキラ輝くアイドルでした」

 間違いなく咲羅よりも劣る私のパフォーマンスをそんなに褒めてくれるなんて。お世辞でも嬉しい。


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