第35話 記念日2/6

 話が脱線してるじゃん。

 今日も、駿ちゃんと松岡先生に協力してもらった。咲羅を「ライブに向けて振りのことで相談がある」って足止めしてもらい、私だけ先に帰らせてもらった。

 あっ、駿ちゃんからメッセージ。なになに、【今から帰ります】ね。【了解】っと。

 よーし、料理もほぼ完成してるし、テーブルのセッティングしますか!


 ピンポーン。

 食事をテーブルに並べ終わった頃、インターホンが鳴った。帰って来たな。ナイスタイミング。

 咲羅ってば、合鍵渡してるのに、私が部屋にいるときは絶対インターホン鳴らしてくるんだよねえ。可愛い。お出迎えしてほしいってことでしょ。可愛すぎるわ。愛おしいわ。

 ピンポーン。

「はいはい、今行きますよー」

 急かされました。そうでした、うちの子は短気なんでした。


 玄関のドアを開けると、

「わっ」

「遅ーい」

 咲羅が私の胸に飛び込んできました。おいおいおい。

「危ないっての」

「遅いのが悪いっての」

 ダメだこの子。聞く気ないわ。まぁ、私がちゃんと受け止められるように勢い調節してくれたことは、褒めてあげよう。心の中で、ですけど。

 口に出したら最後。調子に乗るから。ちゃんとしつけも必要です。

「樹里、樹里」

「はいはい、おかえりなさい」

 私の肩に頭をグリグリ押しつけながら、甘えた声で名前を呼ぶ咲羅。猫なのかあんたは。滅茶苦茶可愛いじゃんかよお。

「ただいまあ」

 はあ、今日も私の恋人兼推しが尊い。素晴らしくあいらしい。尊すぎて辛い。鼻血出そう。

「ん? なんかいい匂いがするっ」

 鼻をスンスン鳴らした彼女は、私からカラダを離したのと同時に靴を脱ぎ散らかして、リビングへと走っていきました。

「ちょーい、靴っ」

 あと手を洗え。ばっちいでしょうが!

 あ、引き返してきて洗面所へレッツゴーしやがった。それは褒めてやるから、靴もちゃんと並べなさいよ。

 でも、今日ぐらいはいいか。記念日だし、大目に見てあげよう。

 優しい私に感謝してください。


「いつの間に準備してたの!?」

 ちゃんと手を洗ってリビングに突入した咲羅は、目を丸くして振り返った。

「ふふっ。ビックリしたでしょ」

 はい、貴女が寝ている間です。バレないようにするの大変でした。この1週間はキッチンに立たせないように、冷凍庫を見られないようにするのに必死だった。

「にゃっす、マジヤバァ」

 語彙力喪失してますけど、大丈夫ですか。

「全部美味しそう!」

 んにゃー、喜んでもらえて嬉しいわ。

 サーモンのカルパッチョ、ポテトサラダ、カボチャのポタージュ、カプレーゼ、バゲット、メインのローストビーフ。

 我ながら最高のメニューだと思う。考えたの私だけじゃないけど。ありがとう、駿ちゃん、松岡先生。彼女は大喜びです。大成功です。


「それでね、渡したい物があるんだけ――」

「待った。それは私もあるから、後にしよう。早く食べよう。冷めちゃう前に食べよう、うん。早く食べよう」

 滅茶苦茶早口で言われました。目をキラキラさせながら。食べたい気持ちは十分伝わってきたから、落ち着け。

「わかったわかった、食べようねえさくちゃん」

「なんか私のこと、バカにしてる?」

「してないよー。喜んでくれてるのが伝わってきて、幸せが口から漏れただけです」

「にゃはは」

 え、チョロくない? 私の意味不明な理論、通じちゃったよ。受け入れられちゃったよ。

 将来が心配です。変な人に引っかかりそうで私しゃ怖いよ。


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