第35話 記念日3/6

「美味しい、滅茶苦茶美味しい」

 さっきからずっと「美味しい」を連発しながら食べてくれる咲羅。可愛い。ニッコニッコで顔に「幸せ」って書いてある。好きぃぃぃぃ。

 ちゃんと飲み込んでから言うあたり、育ちの良さが表れている。表面上はまともな人間に育ててくれてありがとうございます、咲羅のお母さん、駿ちゃん。

「落ち着いて食べなよ、喉に詰まっちゃうよ」

「そんなこと……ぐっ」

「ほら、言ったでしょうが」

 ため息をつきながらお水を手渡す。

「んにゅう、だって美味しいんだもん」

「はいはい、ありがとうね」

 一生懸命作って良かったよ。苦労が報われました。


 綺麗に全部食べてくれた咲羅に、

「デザートもあるんだけど、食べれそう? 無理なら――」

「食べる。食べます。食べたいです。come on」

 食い気味で言われました。苦笑するしかない。最後まで言わせて?

「わかった。持ってくるから待ってて」

「にゃっす。あ、じゃあ私がお皿片付けるわ」

「え、ありがとう」

 なんていい子なんでしょう。お皿を重ねて、キッチンへと運んでくれるさくちゃん。今すぐこの光景配信したいわ。いや、ダメだ。私が独り占めするんだもーん。

 いいだろ全国の咲羅担。アイドル界の女王様を私が独占しちゃってる。うふふ、嬉しい。

「樹里、変な笑い方してる」

「おっと」

 心の声が漏れてました。いいでしょ、別に。今日ぐらい。


「はい、どうぞ」

「うわあ、美味しそう……え、これも樹里の手作り?」

「勿論」

 目をキラッキラさせちゃってぇ。可愛いねえ。

 食後のデザートは、クリームブリュレ。

「いつの間にこんなに料理の腕上達させたの」

「にゃはは。内緒」

「んにゅう」

 貴女が寝ている間です。最近は毎日私の家で寝て起きてしてる貴女に隠れて練習するの、マジで大変だったんだからね。

「私以外の人のために覚えたんじゃないよね?」

 おっと、輝いていた瞳に、一転して嫉妬の炎が見えちゃってます。嬉しいわあ。

「さくちゃんのために決まってるでしょ」

 咲羅がいつもやってくるように、首を傾けて言ったら、

「んんんん゛」

 悶えちゃってー。いつも私の心をかき乱しているお返しだ! と言いつつも、頭を抱えるその姿が愛おしすぎて、私も悶えちゃってるんですけどね。お相子あいこですわ。


 デザートもペロっと食べてくれた彼女に、温かいコーヒーを渡す。私は勿論飲めないので、ココアで。甘いものばっかりで胃がもたれないのかって? もたれません。若いので。

「ふぅ、全部美味しかったよぉ。咲羅感激! 本当にありがとうね」

 向日葵ひまわりみたいに明るい笑顔。両手でマグカップを握りながら言われたら、もう私のライフはゼロよ。可愛すぎる。心臓を撃ち抜かれました。

「頑張って作って良かった」

 心臓を押さえながらなんとかお礼を言ったら、「にゃっす」と首を傾けながら言われた。あざとい。あざとすぎるっ。

 しかし、ここで倒れるわけにはいかない。渡したいものがあるんだから。


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