第36話 望み1/4
2月2日(水)
記念すべきSorelle 1stアルバム発売日! フラゲ日でハーフミリオンどころか、60万枚以上売り上げてる。嬉しいわあ。
SNSをチェックしていたら「JURI歌上手くなったね」「上達してる」。そんな書き込みが沢山。良かったあ。「下手だ」って炎上しなくて。努力してきて良かった。
どれだけ言葉を重ねても、この感謝の気持ちをファンに伝えきることなんてできないから、私はパフォーマンスでお返しするしかない。
みんな、楽しみにしていてね。武道館ライブ。観たことない景色を見せてあげるから。
街でも声をかけられることが増えた。帽子被ってマスクもしてるのに、よく気づくよね。キラキラした目で「応援してます」、そう言われたら胸が
やっぱりファンの力って偉大だね。
おごらず、謙虚に、ライブに向けて邁進しなきゃ。頑張ります!
後日、事務所の公式SNSに1枚の写真がアップされた。アルバムを持った私と咲羅が顔を寄せ合った写真。
【みんな買ってくれてありがとう! 武道館ライブ、楽しみにしていてね♡】
写真を撮り終わった後、咲羅はライブの演出についてスタッフさんと話し合いに行ってしまった。
よし、待ってる間に練習しますか。時間は有効活用しないとね。明日は学校ないし、心おきなく練習に集中できる。疲れ果てるまで練習できる!
レッスンスタジオに向かって歩いていたら、
「樹里ちゃーん」
後ろから声をかけられ、振り返ると
「あっ、琴美さん! お久しぶりです」
「久しぶりだねえ」
年明けの歌番組以来、久しぶりの再会。いやあ、琴美さん今日も綺麗だなあ。
あっ、そうだ。折角琴美さんに会えたんだし、今咲羅いないし……。
「あの、ちょっとご相談したいことがあるんですが」
「なになに、さくちゃんとなんかあった?」
微笑んで首を傾けられましたが、違います。なんでそうなる。
「違う違う違う」
「あははっ、だよねえ」
おちょくられました。この人、こんな性格だったっけ? うん。こんな性格だったな。
「ごめんごめん。そんなしかめっ面しないで」
おっと、顔に出ちゃってましたか。最近気がついたんだけど、私ってば、感情が顔に出やすいタイプみたい。アイドルとしては最悪の欠点では? 直したいですね。
「で、相談ってなに?」
「あっ、そうでした」
今は顔のことはどうでもいい。多分琴美さんも忙しいだろうから、さっさと本題に入ろう。
「12月のアカ姉さんの動画、観ました?」
「あー、あれね。観たよ」
不思議そうな顔をしながら、琴美さんは答えた。そりゃそうだよね。いきなりなんでアカ姉さんのことが出てくるんだ、って思いますよね。
「結構再生回数いってたよね。流石アカ姉だわ」
「そうなんですよね」
私たちと比べたら全然だけど、研究生としては多い方。それだけ、彼女を応援している人がいるってこと。
「それがどうかしたの」
「上手く言えないんですけど……私、あの動画観て、一緒に歌いたいなって」
あのとき感じた感情。生まれてしまった思い。どうすれば琴美さんに上手く伝えられるだろう。
「うーん」
彼女は両腕を組んで、天井を見上げて唸った。
「それって、共演したいってこと?」
「ちょっと違うんですよね」
「んんん」
悩ませてしまって、本当にすみません。私もどうしたいのかよくわかってないもんで。
「あっ」
ひらめいた! とでもいうように、琴美さんはパッと顔を私に向けて
「一緒にグループ組みたいってこと?」
「あっ」
そうだ。その通りです。私、グループ組みたいんだ。心のモヤモヤが晴れていく。
激しく頷く私に、
「図星か。成程ねえ、樹里ちゃんアカ姉さんのこと推してたもんね」
同じように頷きながら琴美さんは言った。
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