第34話 事件1/4

 ライブに向けてクソ忙しいこの時期に、咲羅はなんと海外ドラマの撮影で1週間ばかし海外に行かなくちゃいけない。

 前から決まってたことだか仕方ない。

 1話だけの出演だから、そんなに撮影時間かからないって聞いたし。1週間っていうのは、予備日を含めての話だし。「撮影早く終わったら秒で帰って来るからね」って咲羅が鼻息荒くして言ってたし。

 うん、期待してます。貴女がいないと寂しいのよ。毎日が味気なくって仕方ないよの。


 私はといえば、練習&練習。歌を重点的にね。踊りの方は、振付師の松岡先生にも、駿ちゃんにも「滅茶苦茶進化してる」と褒めてもらえたから、そっちは自信たっぷり。

 調子に乗らないように、気をつけてます。大丈夫です。はい。

 問題は歌。

 得意じゃない、なんて言ってられない。アルバムには初のソロ曲収録されてるし、ライブで披露しなきゃいけないし。

 咲羅が私のために折角書いてくれた曲。夢の日本武道館で初披露するのに、『失敗』の2文字は許されない。

 自分的には前よりも上手くなったと思うんだけどなあ。ファンがなんて言うか不安でしかない。「アンチの言うことなんて気にしなくていい」、そう咲羅は言ってくれたけどさ、今の私にはアンチの言葉も必要。

 もっともっと上にいくために。咲羅の足を引っ張らないように。

 あーあ、早く彼女に会いたい。

 向こうに行ってからも、間を見つけてはテレビ電話してるけど、やっぱり実物には勝てないよお。咲羅の温もりを感じたいよお。

 はあ……。

 ため息をつきながら、事務所を出る。

 今日も駿ちゃんに送ってもらうけど、スタッフさんにお呼ばれされた彼は「ちょっと待ってて」と事務所に引き返してしまった。

 うーん、やっぱり外は寒いや。中で待たせてもらおう。

 寒さに震えるカラダをさすりながら、私も再び事務所に戻った。


 人気のない廊下。いつもは誰かしら通っている廊下も、流石に夜は誰もいない。

 あっ、自販機。なんかあったかい飲み物買おう。駿ちゃんの分も。「気ぃなんかつかわなくていいのに」って彼は言うだろうけど、日頃お世話になってますからね。

 たまにはお礼がしたっていいよね。うん。

 お金を入れて、ココアを2つ買う。私も駿ちゃんも苦いの苦手だから。甘党ですから。

 ガコン、ガコン。

「あっつ」

 自販機の飲み物ってこんなに熱かったっけ? 久しぶりに買ったから驚きだわ。

 ん? 今微かに足音が聞こえたような……。

 その方向を見てみるけれど、誰もいない。気のせいか。

 トン、トン。

 およよ、やっぱり気のせいじゃないぞ。この廊下足音響くんだよ。人気のない今は尚更響くんですよ。

 ヒールを履いてるのかな。この感じは。

 もう一度、音がした方を見る。

 そこにいたのは、

「華那ちゃん……」


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