第33話 クソ親父2

 出来上がったオムライスにラップをかけた咲羅と一緒にソファに座る。

「どうして、咲羅が私のお父さんの家の写真、持ってるの」

「……」

 無言ですか。でもね、私知ってるんだよ。ぜーんぶ。

 咲羅がゴシップ記者の大森さんを使って、あの人の家を突き止めたこと。何度かあの家の前に通っていること。

 去年からずっと調べてもらっていたから。元ENDメンバー・現探偵の四月一日わたぬきさんに。

 曽田さんとゴシップ記者・大森おおもりとの、研究生に降格されられたアカ姉さんが通っていたホストクラブのオーナーとの繋がりを。

「教えて」

「……」

 視線を彷徨わせたまま、無言を貫き通す咲羅。なんで私が知ってるのか、どう答えたらいいか必死に考えてるんだよね。

 でもさ、さくちゃん。もう貴女は私の前じゃ嘘つけないの。

 私たちはずっと一緒にいるんだもん。彼女の腹黒さも、嘘つきなところも、全部知ってる。わかってる。お見通し。


 しょうがないなあ。

「さくちゃんはさ、私のためにクソ親父を探してくれたんだよね」

「……うん」

 私は、そんな咲羅のことが大好きなんだもん。狂おしい愛してるんだもん。心の底から。

 だからさ、私以外見ないでよ。

「もう、いいんだよ、さくちゃん。アイツのことなんて。借金も返し終えたし」

「そうなんだ」

「うん、ちゃんと綺麗さっぱり」

 ましてアイツのことなんか、貴女の時間を使ってまで監視しなくていいんだよ。

「私もお母さんも、あの人は死んだと思ってる。この世に存在しないと思ってる。だからいいの。さくちゃんがこれ以上、アイツを監視しなくても」

 彼女の手に、そっと手を重ねる。

「でも、でもさ……アイツ、幸せそうに暮らしてるんだよ。新しい家族と一緒に。そんなの――」

「いいの」

 眉間に皺なんて寄せないで。その大きくて美しい瞳に、憎しみの炎なんて宿さないで。


「私にはさくちゃんがいるから。貴女さえいてくれれば、他になんにもいらない。アイツがどこでどんな暮らしをしていようと、どうでもいいんだよ」

 お願い。私の想いが伝わって。お願いだから、お願いだから

「さくちゃんが手を汚す必要なんてない」

 目を丸くしちゃってさ。やっぱり考えてたんだね。

 あの人を殺すことを。

「アイツのために、さくちゃんが人生を棒に振る必要なんて、全くないんだよ」

 もしかしたら他の人を使ってあの人をこの世から消す方法を考えていたのかもしれないけれど、それも嫌だ。

 彼女が関与していることに違いはないんだから。

 だから、私たちはちゃんと話し合わなくちゃいけない。全身全霊で、咲羅が暴走する前に、止めなきゃいけない。

「もう二度とアイツの家に行かないって、関わろうとしないって、約束して」

「……」

 受け入れがたいかあ。そりゃそうだよね。私も貴女の立場だったら……。

「私は、樹里の人生を滅茶苦茶にしたアイツが許せない」

「……うん。さくちゃんの気持ちは嬉しいよ。アイツが借金残して消えたとき、傍で支えてくれたのはさくちゃんだったし。貴女がいなかったら、私は今ここにいられなかったと思うし」

 ゆっくりと彼女の手を握る。

「今回のことも、嬉しいよ。私のためにあの人を探し出してくれて。でも、本当にもういいの」

 お願い、約束して。

「私はさくちゃんがいないとダメなの。だから、アイツなんかと関わらないで。ずっと私の傍にいて」

「うにゅう……」

 あは、こんな状況でさえ、貴女はそんな可愛らしい声出しちゃうんだね。

「笑わないでよ」

「ごめんごめん」

 あんまりにもこの場に相応ふさわしくない声が愛おしくかったからさ。


「……樹里の気持ちはわかった。納得いってないし、アイツが幸せに暮らしてることは許せないけど、樹里がそう言うなら、私はもう関わらない」

「誰かに頼んで監視してもらうのも、なしだからね」

「わかった」

 顔に「全然納得してない」って書いてあるけど、まあいいや。言質げんちはとったし。

「ありがとうね」

 そう言って優しく抱きしめたら、私の肩にグリグリと頭をこすりつけてきた。痛いっての。

 でも、この痛みでさえも、温もりも愛おしいって思っちゃうんだよね。

 私ってば、相当咲羅に毒されてるなあ。引き返せないところまできちゃってるな。

 いや、引き返すつもりなんて毛頭ありませんが。咲羅が私から離れていこうとしたって、許さないから。なにがあっても離れてあげないから。


 ねえさくちゃん、私の愛は、貴女が思っているよりも相当重いんだよ。上手いこと隠してるけど。

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