第33話 クソ親父1/2 *咲羅*

*咲羅*

  2022年1月。年明けから、私たちSorelleはありがたいことに、大忙しだった。歌番組だけじゃなくて、正月特番のバラエティーに沢山呼んでもらった。それだけ私たちがアイドルファンだけじゃなくて、一般的に認知されてるってこと。嬉しいわ。

 正直、家でゆっくり樹里と過ごしたかった。でも、私たちにはやることがたくさんある。

 動画チャンネルには、アルバム発売に向けてレコーディングver.を公開したり、MVを公開したり。それ自体は去年の時点で撮り終えてたから全く問題ない。

 大変だったのは、ライブに向けての練習。

 曽田さんが日本武道館でライブすることを発表したあの動画では、詳しい日程はお知らせしてなかったけど、公式ホームページで2月13日(日)に行うと後日伝えた。

 ファンは大喜び。私たちは大忙し。

 アルバムは2月2日発売だからね。マジで正月休みとかなかったのよ。練習漬けの毎日。

 それも楽しかったけど。樹里が一緒だから。彼女がいれば、なんだって楽しい。私がクリスマスにあげたクマのストラップを律儀に鞄に付けてくれてるしさ。

 ちょっぴり申し訳ないなあ。盗聴器仕込んじゃってるから。

 まあ、バレても樹里は許してくれそうだし。いいよね、別に。


 そう呑気に考えていた私は、油断していたんだと思う。


「さくちゃーん、今日撮った練習動画見せてぇ」

 およよ、 絶賛料理中な私は手が離せない。

「あーフォルダに入ってるから探して」

「りょ」

 どんどん痩せていく樹里のために、頑張って覚えた料理。まだまだ上手には作れないけれど、オムライスだけは上達した。単に私が好きで、作りまくってたからなんだけど。

 そして今日もオムライス。はい、私が食べたいだけです。練習いっぱいして疲れたんだもーん。夜に食べたって平気です。太りません。

「……」

 ん? スマホの画面を見たまま樹里が動かない。ロックの解除の仕方は前に教えたはずなんだけどな。どうしたんだろ。

「ねえ、さくちゃん。この写真なに」

 キッチンの私の前に、真顔でやって来た樹里は、画面を私に見せてきた。

「およ? なに……あ」

 やらかした。やってしまった。

 そこに表示されていたのは、ある一軒家。なんの変哲もない一軒家。だけどその家は。

「この家、私のお父さんの家だよね」

「……」

 黙り込むしかない。どうして、貴女がそれを知っているの。どうして、クソ親父の家だってわかるの。

 聞きたいけれど、聞けない。否定すればいいのに、できない。

 あまりにも樹里の目が真剣だったから。

「さくちゃん、話そっか」

 ちょうど作り終えてしまったオムライスが憎らしい。もう少し早く完成していたら、樹里にあの家の画像を見られることもなかったのに。


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