第32話 年末歌番組3

「さてさて、どうかなあ」

 心配そうに画面を見つめる彼。

「成功するかなあ」

「成功してもらわないと困る」

「たしかに」


 ハラハラドキドキしながら画面を見つめる。早着替えに当てられた時間はわずか数十秒。

 本番で、しかも咲羅最後の出演でミスするなんて許されない。というか、私が許さない。多分全国の咲羅担も。

 失敗したが最後。炎上確定。お願いだから、成功させてよ……。


 その祈りが通じたのか、メンバーたちが幕を下ろし、現れた21人のメンバーは、見事に早着替えが成功して卒業曲の衣装に着替えられていた。

「よっし」

「やっぴー!」

「って、え? 咲羅の衣装――」

「あ、そうそう。樹里ちゃんには内緒にしてたんだけどね」

 彼女が着ていたのは、9thの衣装ではなく、卒業ライブで着ていたピンクのドレス。

「マジか!」

「樹里を驚かせたいって、急遽きゅうきょこのドレスを着ることになったんよー。ビックリしたっしょ?」

「心臓飛び出るかと思ったわ」

 息をきらした様子もなく、普通に歌い始める咲羅を観ながら開いた口が塞がらない。

 え、でも直前のリハでは9thの衣装だったよね。ということは、リハが終わってから変更したってこと? マジか。

「え、これってもしかして、もしかしなくても、ぶっつけ本番?」

「にゃっす。あ、でも楽屋で軽く練習してたけどね」

 軽くって。流石我が儘女王様。衣装さん、まさか咲羅がそんなこと言うなんて予想してなかっただろうから、慌ててドレス取りに行ったんだろうなあ。

 うちの咲羅がご迷惑をおかけして、本当にすみません。

 でも、やっぱりこのドレスは最高に彼女に似合ってるからね。最後にはピッタリだよ。この衣装しか勝たん。


 ラスサビになり放たれた紙吹雪と共に舞う咲羅は、儚さと美しさを兼ね備えていて、見蕩みとれてしまう。

「綺麗だなあ」

「やっぱりこのドレスにして正解だねえ。最後にはこれが相応ふさわしいよ」

 全く同意見です。てか考えること一緒だなあ。流石っす。

「終わったら、いっぱい褒めてあげてね」

「にゃっす」

 言われなくてもそのつもりです。

 画面の中、2曲踊り切った咲羅は、満面の笑みを浮かべていた。ライブのときみたいに泣いてない。

 最後は笑って終わりたい、そういうことなのかなあ。想像することしかできないけど、多分そういうことなんでしょうね。

 だって貴女はアイドルだから。血のにじむような努力をして、茨にまみれた道を必死に歩んできた天性のアイドルだから。


 今までお疲れ様でした。沢山の幸せと希望をくれてありがとうね。

 そしてこれからも、来年も、よろしくね。さくちゃん。

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