第32話 年末歌番組2/3

 本番。私たちのステージは大成功だったと言っていい出来だったと思う。

 歌詞を飛ばしたりダンスでミスしたり、なんてしなかった。

 司会の方に「この時代にミリオン連発して、勢いが凄いですね」って言われて、手汗がヤバかったけど。

 あー、私たちはヘッドセットで良かった。ハンドマイクだったら、手から滑り落ちてた自信があるもん。

 そんな自信もつなって? はい、その通りです。

 でもいいじゃん。終わり良ければ総て良し、でしょ。


 出番を終えた私は、楽屋のテレビからRoseのみんなを見守る。一人寂しく? いいえ、駿ちゃんと一緒です。

 今日披露するのは、『飛び降りた』と『桜の咲く方へ』の2曲。

 画面いっぱいにならんだ35人のメンバーたち。衣装は、8thのロングシャツワンピースを着ているメンバーと、卒業曲の衣装を着ているメンバーで分かれている。こう見るとチグハグだけど、全員参加するのは咲羅の卒業曲のみだからねえ。

「岩本さんは、今日でRose vampを卒業されるんですよね」

 司会者さんから話を振られた咲羅は、微笑みながら頷き、視線をカメラに向ける。「はい、そうなんです。寂しいですけど、今日こうして全員で歌番組に呼んで、本当に光栄です。卒業してからも、Sorelleとしてアイドルを続けていきますので、Rose vampと共に、応援のほどよろしくお願いいたします」

 頭を下げた彼女に、会場から温かい拍手が送られた。うんうん、今日もうちの子は可愛い。

 隣の駿ちゃんも「可愛いねえ」って言ってます。激しく同意です。


「ご準備の方、よろしくお願いします」

 一通りインタビューが終わり、咲羅たちはステージへと歩いていく。

 数秒後、21人が立ち位置についたことを確認した司会者さんが、曲紹介をする。

「それではお聴きください。Rose vampのみなさんで、『2021スペシャルメドレー』です!」


 純白の衣装を身にまとって舞う咲羅は、本当に何度観ても美しい。堂々としていて、緊張なんてまるで1mmもしていないみたい。

 いや、多分してないんだろうなあ。顔に「楽しんでます」って書いてある。冗談抜きで、マジで。

 1曲目を披露した後、卒業曲を着たメンバーたちが大きな布を持ってステージの上手、下手から登場し、21人はさっと後ろに下がった。

 そして、その大きな布が彼女たちを覆い隠してしまう。はい、早着替えのお時間です。

 リハを含め何度も練習していたけど、結局1回も成功しなかった早着替え。毎回誰かが着替えに間に合わなかったらしい。咲羅は全部間に合ったみたいだけど。あ、これ駿ちゃん情報ね。

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