第29話 卒業4

「みなさん、本当にありがとうございました。それじゃあ、さくちゃん。曲紹介、よろしく」

 琴美さんから曲紹介を振られ、一瞬目を見開いたけど、すぐに立ち直って、

「はい、最後は楽しく、笑って終わりたいと思います。いきますよー、準備はいいですか!」

 咲羅からの問いかけに、会場からは雄叫びにも似た歓声があがる。

「足りないなあ、準備はいいですか!」

 琴美さんが更に煽り、さっきよりも大きな歓声があがった。

「よしっ」

 笑顔を咲羅に向け、琴美さんは頷いた。

 咲羅も頷いて、

「一緒に歌ってください! 『Rose vampバンプ』!」


 やっと やっと やっと

 やりたいことを見つけたんだ

 今 私たちらしさを見つけたんだ

 Rose vamp


 この曲にソロパートはない。全員が一体となって、ペンライトを振りながら歌う。だからこそ、ラストソングにふさわしい。


 どこで咲けばいいかなんて

 最初はわからなかった

 求められるまま

 “大人らしさ” 演じてた

 なにが自分かわからなくて

 辛くて 苦しくって 悲しくって

 独り寂しく泣いてた日々よ

 サヨナラだ


 トロッコに乗る2期生・3期生たち。1期生たちは、咲羅を先頭にメインステージから縦花道を通ってセンターステージへと歩いて行く。

 彼女もトロッコに乗る案があったらしいけど、咲羅は自分で歩きたいと言ったらしい。これ、駿ちゃん情報ね。

 みんなに手を振りながら歩く咲羅は、満面の笑みを浮かべていて。心の底から楽しんでるって伝わってきた。


 気づけば大切な仲間がいた

 道に迷っても 仲間がいてくれた

 この先どんなことが待っているんだろう

 茨だらけのこの道も

 みんながいれば大丈夫

 歩いて行ける

 心ひとつにして 支え合おう

 覚悟決めて進もう


 センターステージから縦花道を通って、バックステージへと歩いて行く。もう2度とこの曲を歌う咲羅は観られない。だから、今は泣くのをぐっとこらえて目に焼き付ける。


 やっと やっと やっと

 やりたいことを見つけたんだ

 今 私たちらしさを見つけたんだ

 二度と 二度と 二度とあきらめない

 賞味期限なんてない

 咲き続けよう 永遠に

 絆深めていこう 永久に


 サビになり、トロッコやバックステージでペンライトを振りながら踊る彼女たち。みんないい笑顔。素敵だよ。最高だよ。とっても輝いてるよ。


 これからも私たちの色で

 世界を塗り変えていこう

 見たことない景色は

 きっと愛で溢れているよ

 大丈夫 私たちなら

 華開いて ずっと

 Rose vamp


 2番に入り、咲羅たち1期生は外周を歩き始めた。トロッコ組は先にメインステージで待っている。

 笑顔でペンライトを振っているファン、泣きながらも必死でペンライトを振っているファン。その光景に、嬉しそうに手を振り返しながら歩みを進める咲羅。

 愛で溢れた空間。

 幸せだね。こうやってみんなに応援してもらえて。

 強がって、大人ぶってガムシャラに歩んできた貴女のアイドル道は、無駄じゃなかったんだよ。

 私もペンライトを振っているうちに、また泣けてきてしまった。


 ラスサビに差し掛かるタイミングで、全員がメインステージに揃った。


 やっと やっと やっと

 やりたいことを見つけたんだ

 今 私たちらしさを見つけたんだ

 二度と 二度と 二度とあきらめない


 さっきまで笑顔でペンライト振っていたメンバーたちも、いよいよ泣き出してしまった。そして、咲羅も。

 今日どんだけ泣くんだよ。そう苦笑しながらも、今まで我慢してきた分、枯れるほど泣けばいいじゃん。そう考える自分がいた。

 私だって泣いてるしね。


 賞味期限なんてない

 咲き続けよう 永遠に

 絆深めていこう 永久に

 これからも私たちの色で

 世界を塗り変えていこう

 見たことない景色は

 きっと愛で溢れているよ

 大丈夫 私たちなら

 華開いて ずっと

 Rose vamp


 横一列に並んだメンバーたち。

 あぁ、ついに終わってしまった。寂しさが胸に広がる。会場全体にも、しんみりとした空気が流れている。

 そんな空気を吹き飛ばすように、

「今日はありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 小さく『Rose vamp』が流れる中、元気よくファンに向かって手を振って、後列から順番にステージ裏へとはけていく。

 残ったのは、1期生のメンバーたち。

「ありがとうございました! またね!」

 そんな彼女たちも、咲羅を残してはけていく。琴美さんは、去り際に彼女の肩をポンっと叩いていった。

 咲羅はマイクとペンライトを握りしめて、ゆっくりとファンに背を向けた。ファンたちは「咲羅! 咲羅!」と声援を送り始める。

 その声に背中を押されたかのように、スポットライトに照らされた彼女は階段を上り始めた。

「咲羅! 咲羅!」

 どんどん力強くなっていく声援。私も喉から血が出そうなくらい、叫ぶ。

 今日は楽しい時間を、幸せな時間をくれて、ありがとう。

 ありったけの愛情と感謝の気持ちを込めて、叫んだ。


 最上段にたどり着いた咲羅は、スポットライトを浴びながら振り返り、ファンに向かって大きく手を振った。

「今までありがとう! またね!」

 涙で頬は濡れていたけれど、笑顔で彼女は言った。

 そして、ファンから今まで以上に大きな声援を受けながら、咲羅は手を振り続け、会場の照明が落とされた。


 こうして、咲羅のRose vamp卒業ライブは、幕を閉じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る