第29話 卒業3/4

【今までRoseを支えてくれてありがとう!】

【大好きだよ!】

【元気を、愛を、希望をくれてありがとう。感謝しています。】

【生きて来られたのは咲羅たんのおかげです。本当にありがとう。】

【卒業しても、応援し続けるからね】

【センターで、Roseを守ってくれてありがとう。】


 ファンの肉声とともに流れていくメッセージを見て、咲羅は口に手を当てて泣いていた。必死に嗚咽をこらえながら、画面を見つめている。ファンの想いを受けとめようとしている。

 こんなの泣くしかないじゃんねえ、さくちゃん。いつの間に撮ったんだろうね。グループのフォーメーションや歌割について決定権を持っていた彼女だけど、こんなサプライズがあるなんて知らされてなかったもんね。

 ちゃんと黙っていてくれたスタッフに感謝。よく口を滑らさなかったな。ありがとう、本当に。


「咲羅ちゃん、今までありがとう! 卒業おめでとう!」


 その言葉で締めくくられたこのサプライズは、大成功だった。咲羅号泣してるし。彼女がファンの前でこんなに泣くなんて、久しぶりだなあ。

 最後に素の自分を見せられて良かった。

 彼女以上に泣きながら、私は頭の片隅でそう思った。

 そして、メインステージ上にメンバーたちが姿を現した。

 ありゃりゃ、みんな泣いてるじゃん。全員目が真っ赤じゃん。愛おしすぎるその光景に私は思わず、ふふっと笑ってしまった。ごめん。

「さくちゃん」

 琴美さんがセンターステージに歩きながら、彼女の名を呼んだ。

「……」

 うん、返事したくてもできないんだよね。嗚咽こらえるのに手一杯だもんね。

「今日は、私が代表して、さくちゃんにお伝えしたいことがあります」

 わざと、ちょっとおちゃらけながら、琴美さんが言った。


「私たちが船出してから、今日までいろんなことがありました。楽しかったこと、苦しかったこと、世間の荒波にもまれながらも、こうしてRoseが存在できているのは、さくちゃんがセンターにいてくれたからです。センターは、ただ他のメンバーよりも前にいるだけが仕事じゃない。いろんな批判を受けとめなきゃいけない。貴女は、全部一人で受け止めてくれました。ごめんね、そして、本当にありがとう」


 琴美さんが優しく咲羅の手をとった。2人の様子を静かに見守るメンバーとファン。いや、静かにっていうのは嘘だわ。メンバーもファンも泣いてるもん。すすり泣く声が響いてるもん。

 相変わらず咲羅は無言だけど、その目はちゃんと琴美さんに向けられていた。


「泣き虫なさくちゃんも、向日葵ひまわりみたいに明るく笑うさくちゃんも、みんな大好きだよ。これから私たちは離ればなれになってしまうけど、仲間であることに変わりはないから。いつでも貴女の居場所はあるから。安心して、旅立ってください」


 言い終わるのと同時に、琴美さんは咲羅を抱きしめた。こらえきれなくなった嗚咽が、マイクを通して微かに聞こえる。

 本当に、本当にいろんなことがあったけれど、信頼できる仲間に出会えて良かったね、さくちゃん。

 何回でも言うよ。貴女は世界で一番幸せ者だよ。


 その後琴美さんに手を引かれ、泣きながら咲羅はメインステージへと戻った。ううん、泣いてたのは彼女だけじゃない。琴美さんもこらえきれず、涙を零していた。

 そしてメンバーたちに抱き締められた咲羅。その光景の、なんと微笑ましいことか。胸が温かくなったよ。

 自分以上に泣くメンバーに囲まれて、漸く彼女は泣き止んだけど、目も鼻も真っ赤。可愛いねえ、愛おしいねえ。今すぐ叫びたいよ、「可愛いよ!」って。

「咲羅たーん!」

「咲羅様ぁぁぁぁぁ」

「可愛い!!」

 おっと、咲羅強火担が叫んでらっしゃる。関係者席から叫ぶことは恥ずかしいから、存分に私の分まで叫んでくれ。いや、もう既に泣きじゃくってるから、他の方に苦笑されてるんですけども。笑わないでよお……。

 メンバーにもみくちゃにされながら、咲羅は笑っていた。うわあ、ホントに可愛い。

 琴美さんもそんな光景を見て微笑みながら、

「ほらほら、後でまた存分にわちゃわちゃしていいから、みんな立ち位置について」

 ありがとう、リーダー。貴女が止めなかったら永遠にこの状況が続いていました。流石頼れるリーダー。


「えーそれでは……次が本当に最後の曲になります」

 ファンから「えー」という声が聴こえる。うん、わかる。この時間が永遠に続いてほしいよね。

 でも、始まったものは終わりを迎えなきゃいけない。楽しい時間も、推しも、永遠じゃない。

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