第29話 卒業2/4
「13歳から今日まで、約4年間Roseのメンバーとして活動できたことを誇りに思います。間違いなく、Roseは……Roseは私の青春そのものです。どうか、これからも、Rose
深く頭を下げた咲羅に、また「咲羅! 咲羅!」と彼女の名を呼ぶ声が会場に響き渡る。
モニターいっぱいに映し出された彼女の姿。ポロリと涙が零れ落ちたのが見えた。
私も泣き虫だけど、咲羅も泣き虫だもんね。知ってるよ。だから、今日はいっぱい泣いていいんだよ。みんな受け止めてくれるから。大丈夫。ここには貴女の味方しかいないんだよ。
片手で涙を拭いながら顔を上げた彼女の目元は、薄っすらと赤く染まっていた。
「私のアイドル人生は、これからも続いていきます。グループを卒業することは寂しいけれど、新しい道を、JURIと歩いていこうと思います。本当に、本当にありがとうございました。いくら言葉を重ねても、感謝の気持ちを全てお伝えすることはできません。だから、私らしく、歌でお伝えしようと思います」
そう言って笑った彼女は、やっぱり儚げだったけれど、向日葵みたいに明るい笑顔を浮かべていた。
うん、それでこそ咲羅だ。切り替えのスペシャリスト。アイドルになるために生まれた彼女。
「それでは聴いてください。『桜の咲く方へ』」
アルバムには収録されていたものの、今まで一度もライブで披露されていなかったバラードバージョン。どよめくファンたちとは対照的に、咲羅は静かに歌い出した。
このままずっといたいけれど
立ち止まってはいられないから
戻れない日々が愛おしいけど
私は先に行くね
レッドカーペットが敷かれた階段を一段一段、歌いながらゆっくりと降りる姿は堂々としていて、彼女に似合う言葉はやっぱり『天使』や『お姫様』じゃなくて、『女王様』なんだと感じた。
振り返れば
悩んで 傷ついて 苦しんだ
私がそこで泣いているから
手を引いて先に進むよ
Bメロが歌い終わると同時に、咲羅はメインステージ中央に立った。スポットライトを浴びながら、所々声を震わしながら歌う彼女の姿に、また熱い涙が頬を伝っていく。
勝手に流れていく涙はもう止められない。拭うのも面倒で、零れ続ける涙をそのままに、じっと彼女の姿を見つめ続けた。
最後の我が儘を言わせて
笑って見送ってほしい
私は散るんじゃない
咲きにいくんだから
センターステージに向かって歩き、優しく微笑みながら歌っていた彼女の瞳から、また涙が零れ落ちた。周りのファンも泣いている。
それだけみんなから愛されてるってことだよね。
自分でも言っていたけれど、本当に、こんなにも沢山のファンから応援される貴女は、世界で一番幸せ者だよ。
このままずっといたいけれど
立ち止まってはいられないから
戻れない日々が愛おしいけど
私は先に行くね
先に 咲きに 先に 咲きに
先へ
ひらひらと桜が舞う方へと
最後の瞬間まで華やかに
いつか笑ってまた会おう
桜の木の下で
約束だよ
最後にファンに向かって小指を差し出し、彼女は歌い終わった。
アウトロ中に、センターステージ中央でゆっくりと回って、全てのファンに向かって小指を差し出す。
ファンも応えて、小指を差し出している。
なにこの最高の空間。もう涙で前が見えないよ……ちゃんとさくちゃんの姿を目に焼き付けたいのに。
曲が終わると同時に頭を下げた咲羅に、大きな拍手と歓声が送られた。
そして、オルゴール調の『桜の咲く方へ』が流れ出した。戸惑う様に顔を上げた咲羅は、視線を
何事か、と後ろを向いた咲羅が目を丸くした姿がステージサイドのモニターに映し出された。
中央のモニターに表示されていたのは、『ファンから咲羅へ ~感謝を込めて~』の文字。
あぁ、ファンから咲羅へのサプライズメッセージだ。
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