第21話 合同練習5 *咲羅*
夜中だというのに、家には明かりがついていた。子どもの笑い声が家の外まで響いている。
隣近所とは距離があるから苦情はこないんだろうけど、腹が立つ。なんでお前が幸せそうな家庭を築いてんだよ。みすぼらしい生活を送っていてくれたなら、放っておけばいいかって思えた。
なのにさあ、子どもまでつくっちゃって。信じらんない。樹里と樹里ママに借金を押しつけて消えたくせに。
あの子たちがどんだけ苦労したと思ってんのさ。きっと、想像したこともないんでしょうね。申し訳ないとも思ってないんでしょうね。
でなきゃ、新しい家族と楽しく暮らせない。マジで最悪。殺してやりたい。
メディアに出る私たちを、アイツはどんな気持ちで観ているんだろう。まさかとは思うけれど、JURIが娘だって気づいてない。なんてことはないよね? どんだけ離れていても、自分の娘ぐらいわかるよなあ。てか、わかれよ。
いやいやいや、気づかない方がいいか。金の
多分樹里は、アイツが目の前に現れても、そのことを私には内緒にしておくんだろうし。部屋には盗聴器と小型の監視カメラを設置してあるけど、もしものときのために樹里がいつも使っている鞄に付ける用に、キーホルダーでもプレゼントしておこうか。勿論盗聴器を仕込んで。
相変わらず楽しそうな声が聞こえる家を見つめながら、ため息をつく。
はあ……お前の存在は『余計』なんだよ。樹里が有名になっていくにつれて、世間のゲスいヤツらは彼女の周辺を探り始める。そしたらきっと、父親が借金を残して消えたことなんて、すぐにバレる。
勿論記事が出る前に曽田に握りつぶしてもらうつもりだけど、今はネット社会。SNSで流されてしまったら、止められない。消しても消しても、拡散され続ける。
そんな汚点、樹里には必要ない。
あなたは愛の為に人を殺せますか?
ドラマ、小説、フィクションの世界でよく聞く言葉。私は、樹里のためなら人を殺せる。アイツを、殺せる。
曽田に頼んで社会的に抹殺してもいいけど、殺したい。存在そのものをこの世からなくしたい。
このまま家に火をつけてしまおうか。ポケットに忍ばせたライターを触りながら、考える。
隣の家とは距離があるから、燃え移る心配なし。心おきなく火をつけられる。
でもなあ、コンビニでライター買っちゃったから防犯カメラに映っちゃってるよな。
万が一にも私が捕まるなんてことになったら、樹里は自分のことを責める。絶対に。
彼女が悔やむことなんてないのにね。優しい子だからさ、自分のせいだって責めちゃうんだよね。わかってる。
仕方ない。今日は放火やめときますか。
なんとなく家の写真を撮って、来た道を引き返す。明日また、曽田に相談しよう。あの人、暴力団と繋がりあるみたいだし。
犯行がバレたときのことを考えたら、あんなヤツのために私が手を汚すことない。でも、私は……アイツが苦しみながら死ぬところが見たい。
心の底から。
あっ、樹里のクソ親父を見つけたことは、彼女には秘密にしておくよ。あの子にとって父親は、もうこの世に存在しないから。わざわざ伝える必要なんて、ない。
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