第21話 合同練習4/5 *咲羅*

*咲羅*

 駿ちゃんが待っている駐車場へと、樹里と腕を組みながら廊下を歩いていたら、

「咲羅」

 曽田に呼び止められた。

「なに?」

 言外げんがいに「早く帰りたいんですけど」アピールをしても、曽田さんはニコニコと気持ち悪い笑顔を浮かべたまま。

 仕方ないなあ。

「ごめん、樹里。先に行ってて」

「……りょ」

 彼女は曽田に視線を向けることなく、足早に歩いて行った。あー樹里ってば、曽田のこと嫌いだもんね。そんなに態度に出しちゃって、もう、可愛い子。

 いつまでも樹里の背を見つめ続ける私に、

「ちょっとここでは話せないから、会議室に行こうか」

「なんの話よ。打ち合わせなら明日でいいでしょ」

 ジっと曽田の顔を見つめると、

「樹里の父親を見つけ出した」

 マジか。思わず目を丸くしちゃったよ。そりゃここで話せないわ。

 私は大人しく、彼の後についていった。


 夜中、こっそり寮を出る。マンションの道路には車1台停まっていない。だけど、電柱の向こうに人影。

 あれで隠れてるつもり? バレバレなんですけど。ウケる。こっそり鞄からスマホを取り出して、無音カメラで写真を撮った。

 後でゴシップ記者の大森に送っとこう……いや、これは私が切るべき手札だな。送るのやーめた。

 でも、絶対さっきの写真だけじゃ顔が写ってないから、やっぱりアイツを頼るしかない。曽田伝いでお願いして、記事にはせず、写真だけ撮ってもらおー。

 彼女――中井に背を向けて、ゆっくりと歩き出す。きっと、こんな時間になんで外出? って思ってるんだろうけど、どうでもいい。お前関係ないし。ついてくる気配もないし。

 お前ってやつは、マジで樹里のことしか興味ないんだな。ムカつくわ。

 てか、この時間にここにいるお前もヤバイだろ。深夜だぞ。家族になんにも言われないのかよ。

 アイツは寮に住まず、実家から通ってる。家族にバレないようにこっそり来てんのかな。それなら好都合。毎日来いよ。その方が写真撮りやすいから。


 外灯が照らす暗い道を歩きながら、週刊誌のことを考える。さっき大森を思い出したからだな。

 今までは「言わせたいヤツには言わせておけばいい」と思って週刊誌の記事は放っておいた。

 私に注目が集まる燃料にもなったし。

 でも、Sorelleを結成してからは曽田に握り潰してもらってる。私たちに、余計な情報はいらない。


 歩くこと約1時間。やっと目的地に到着した。結構疲れたな……。

 なんでタクシー使わなかったのかって? だってこれは、大っぴらにできることじゃないから。さっきも言った「余計な情報」になることだから。

 目の前には、ありきたりな一軒家。特徴なし。面白味がない。

 表札を確認する。「田中」。マジでありきたりだな。面白味がなさすぎる。

 まさかこんな近くに住んでいたななんて。盲点だったわ。

 そう、この家が、樹里の父親が暮らしている家。借金を残して蒸発したクソ親父の住処すみか

 ずっと探していたけれど、私だけじゃ見つけられなかった。本当大森様様だわ。見つけてくれてありがとう。


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