第7話 推しは永遠じゃない6 *咲羅*

 そうそう、9枚目の発売時期をフィオ11枚目シングル発売の翌日になったのは、私が曽田にお願いしたから。

 ハッキリ言ったよ、「フィオを潰したい」って。それでも曽田は7月8日にねじ込んでくれた。3期生を参加せるから強行スケジュールになるのも、業者や各方面に迷惑をかけることも承知の上で。

 ありがとうね、曽田さん。


 卒業発表動画はまだあと数分続くけれど、この先はメンバーのコメントばっかりだから興味ない。PCをシャットダウンさせる。

 キッチンに移動してコーヒーを入れながら、片手で樹里の様子をチェックする。うん、画面越しでも可愛いなあ。独り占めしたい。閉じ込めちゃいたい。

 でも、ステージで光り輝く姿も見たい。

 うーん。難しいな。全部叶えることは不可能だから、閉じ込めちゃうのは我慢しないと。

 当分は盗聴と監視カメラで我慢しよう。

 これって犯罪なのかなあ。んー、バレたら樹里怒るかなあ。怒るんだろうなあ。

 だけど、絶対許してくれる。彼女は私の黒いところも好きだから。自意識過剰? いいえ、そんなことはございません。

 本当のことだもん。

 バレる心配? それもございません。カメラも盗聴器も、私がプレゼントしたぬいぐるみやコンセントに仕掛けてあるから。

 方法? あぁそれは、曽田経由でそういうことに詳しい元犯罪者の人に教えてもらった。「困った子だなあ」って笑いながら、ちゃんと教えてくれたよ。ホント、私には甘いよねえ。

 というか、以前フィオに所属していた井上あかねおとしめるのに利用させてもらったゴシップ記者の大森おおもりといい、ホストクラブのオーナーといい、あの人の人脈どうなってんだろ。気になるけど、首突っ込まない方がいいんだろうな。

 ご利用は計画的に、って言うじゃん。


 ん……?

 樹里は動画を一旦停止させて、スマホを触り出した。誰だよ。あんたは私だけを見てたらいいのに。

 もしかして、中井か? 顔ニヤけてるし。もしかしなくても中井だな、こりゃ。最近彼女の推しになった、忌々しい中井。

 って、韻を踏んでるな。不覚だわ。ムカつく。

 さてさて、中井。

 この間、事務所で樹里と仲良さげに話してたってスタッフから聞きましたよ。曽田派のスタッフは私の味方だから、私がいないとき、樹里がどんな様子だったか、誰と喋っていたか、逐一報告してくれる。優秀優秀。これからも密告頼んます。

 マジでお前鬱陶しいんだよ。樹里の周りをウロチョロすんな。アイツが樹里とこれ以上仲良くなる前に、始末すべきなのかもしれない。

 曽田に頼んで、大森にゲスい記事を書いてもらってもいいけど……なんかアイツ、それでも這い上がってきそうな感じがするんだよね。ゴキブリかよ。

 ゴキブリって言った後であれなんだけど、私と同じニオイがするんだよなあ。樹里のことを推してるし。てか、堂々と宣言してるし、各方面で言いまわってるし。

 ファンも、中井が樹里担であることを知ってる。

 周知の事実、ってやつ?

 でも、みんなはわかってない。中井の樹里に対する気持ちはlikeじゃなくてloveなんだよ。私にはわかる。

 厄介だな……早めに処理した方がいいか? いやでも、もうちょっと様子見するか。

 なんとなくだけど、アイツ使えそうな気がするし。


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