第7話 推しは永遠じゃない5/6 *咲羅*

*咲羅*

 あー今日は楽しかった。やっぱり樹里が観ていてくれてると、どうでもいいグループ活動も楽しくなる。

 しかも、今回は彼女の方から「見学させてほしい」って。なにそれ、嬉しすぎる。

 だって私の卒業発表を見守りたかったってことでしょ? うわあ、愛おしいわ。本当に愛してる。

 メンバーに卒業を報告したとき、泣いてくれた人がいたけれど、そんなの比べるのもおこがましいくらい、嬉しい。別にメンバーが泣こうが喚こうが、どうだっていい。

 大切なのは、樹里の反応だけ。彼女が私の行動で一喜一憂してくれることほど、私の心をくすぐるものはないんだから。


 部屋で卒業発表動画のコメント欄をチェックしていたら、自然と口角が上がってしまう。「辞めないで」「これからもセンターでいて」「Roseには咲羅たんが必要だよ」。

 みんなちょろいなー。

 2月のライブでRoseのセンターに復帰することを宣言した後、あんだけ私がセンターに居座り続けることを叩いていたくせに。

 ちゃんとチェックしてんだからね。私にアンチコメント書いた人は、きっちりスクショして保存してます。バックアップもしてます。

 だから、そんな人までもが「辞めないで」って書いてるのを見ると笑っちゃう。手のひら返しエグい通り越してキショイです。

 メンバーもファンのみんなも、上手く騙されてくれてありがとう。この私がグループのためを想って辞めるわけないじゃん。Sorelleやソロ活動に専念したいだけだし。樹里が晴れてアイドルになってくれたんだから、グループなんてもういらないし。

 だけど、マイクを持つ手が震える演技、樹里は騙せなかった。

 流石だわ。よく私のことを理解していらっしゃる。そんなところも大好きよ。私の腹黒いところを華麗にスルーしてくれるところ。

 今頃彼女も卒業発表の動画をチェックしてる。きっと、動画内でも私が演技してること、樹里は気づいてくれるんだろうなあ。どんな表情してるのか、この目で見たい。

 あーあ、部屋に突撃して一緒に動画観れば良かった。なんで自分の部屋に帰ってきちゃったんだろ。最悪。


 まあいいや。直接は見られないけど……。

 スマホのアプリを起動させる。画面に映し出されたのは、こちらを覗き込んでいる樹里の顔。正確には、PCを覗き込んでるんだけどね。

 実は、この間彼女がいないうちに、内蔵カメラの映像が私のスマホやPC、タブレットでチェックできるように、こっそりいじった。合鍵は彼女が引っ越してきたときに貰っていたから、侵入するのは簡単だった。

 あと、部屋に盗聴器も小型の監視カメラも仕掛けてある。これでいつでも樹里の行動がチェックできる。うん、最高。

 彼女の様子をチェックしながら、演技の仕事について考える。

 樹里には見抜かれてしまった。でも他の人はあざむけてるんだから、私ってやっぱり女優に向いてるかも。今度、曽田にドラマの仕事入れてもらえるようにお願いしようかなあ。

 今まで演技の仕事はあったけれど、別に興味ないからオファーがあっても最近は断ってた。でも、SorelleがフィオやRoseよりも売れるためには、四の五の言ってられない。

 最初から負ける気なんてないけど。

 私だけでも最強なのに、神さまからアイドルになるためのギフトを授かった樹里が加わってしまえば、もう無敵なのよ。


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