第7話 推しは永遠じゃない4/6

 イントロでは涙ぐんでいたメンバーも、1番のサビにはちゃんとアイドルスマイルをカメラに向けられていた。

 ロングワンピースの裾をふわりと――花が舞うように操りながら踊る彼女たちを観ていると、この曲のテーマは「生まれ変わる」だから、今日発表するのはタイミング的にちょうど良かったのかもしれないって感じる。

 グループを卒業して新しい世界へと羽ばたく咲羅の背中を押す曲。そう意味をもたせられる。


 歌い終わり、アナウンサーさんから「ありがとうございました!」の声と沢山の拍手に包まれる彼女たち。晴れ晴れとした笑顔でカメラに手を振る咲羅。うん、今日も可愛い。たとえ、その笑顔が演技だとしても。私の咲羅が一番可愛い。

 紆余曲折うよきょくせつあったこの曲だけど、無事に披露することが出来て良かった。心の底から、そう思う。


 歌番組を無事に終え、私たちは今日も今日とて駿ちゃんの運転で帰る。

「今日のパフォーマンスどうだった?」

 車内の沈黙を破ったのは咲羅だった。

「うん、いつも通り良かったよ」

 そう笑顔で言うと、

「にゃっす」

 満足そうに笑った。おーん、楽しそうで何より。そんなことはおいといて、

「マイクを握る手が震えていたけれど、あれ、演技でしょ」

 彼女の頬をツンツンつつきながら尋ねれば、

「あれ、バレた? やっぱり樹里には隠し事できないねー」

 片方の口角を上げて、「テヘペロ」って自分の頭をコツンと叩いた。

「あざといっっ」

 うぎゃーと喚く私に、咲羅は「にゃはははは」と爆笑した。何回やられても慣れないのよ、あんたのあざといポーズ。笑うな。そんで誤魔化そうとするな。

 腹いせに彼女の頬を両手で引っ張ると、

「いひゃい、いひゃい」

 と笑いながら言われました。うん、可愛いです。可愛さでお腹がいっぱいです。

 頬をつまみ過ぎてちょっと赤くなってきたので、手を離す。


「あ、てかさ」

 笑い過ぎてお腹が痛いのか、ヒイヒイ言ってお腹をさすりながら

「樹里泣いてたでしょ」

「げっ」

 バレないように後ろ向いたのに、バレてたんかーい。

「いや、泣いてない泣いてない」

「嘘つけっ」

 パシっと右腕を叩かれる。

「駿ちゃんと一緒に泣いてたじゃん。バレバレだかんねー」

「およ、俺までバレてた感じぃ?」

「にゃっす」

 未だに笑い続ける咲羅があまりにも可愛くて、面白くて、ついに私も笑い出してしまった。因みに駿ちゃんもね。

「もー樹里ったら可愛いっ」

 そう言って私に抱き着いてきたけれど、いやいやいや。

「さくちゃんの方が可愛いから」

「いやいやいや、樹里の方が――」

 私たちの「どっちが可愛いか」合戦は、寮に着くまで続きました。その間ずっと駿ちゃんは苦笑してた。なんかごめん。


 帰宅後咲羅の卒業発表の動画をチェックすると、再生回数滅茶苦茶伸びてた。恐ろしいわ。

 動画内で、咲羅は卒業する理由について

「新しく3期生が入ってくる中、私がいつまでもセンターでいることは、きっとこのグループのために良くないことだと思います。私は、Roseにはもっと先へいってほしい。飛躍してほしい。だから、私は辞めます。Sorelleやソロの活動のこともあるけれど、このグループの将来のために」

 と語っていた。まぁ、それが嘘だってわかってるんだけど、コメント欄には「咲羅たん……」「辞めないで」「Roseには咲羅たんが必要だよ」っていうファンの声で溢れていた。

 いや、あんたら咲羅がセンターでい続けることに不満タラタラだったでしょうが。手のひら返しがエグイですわよ。

 まあいっか……きっと彼女が卒業したら、箱推しじゃなく熱心な咲羅単推しの人は、Sorelleだけを推してくれるようになるだろうから。

 とは思いつつも、咲羅の演技に騙されているファンに申し訳なさを感じずにはいられない。

 うちの咲羅がごめね、みんな。

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