第7話 推しは永遠じゃない3/6

 そう思うけれど、私だったら……泣いちゃうわあ。咲羅がグループにいるのは当たり前で、なくてはならない存在だから。

 というか、私も涙目になってる自覚あるし。咲羅に見つからないように一瞬後ろを向いて涙を拭っていると、

「大丈夫?」

 駿ちゃんが優しく肩をポンポンしてきた。

「大丈夫です……ぐすっ」

「大丈夫じゃないな」

 苦笑しながら言われた。うん、そうですね。大丈夫じゃないですわ。

 何故だかどんどん溢れて来そうになる涙を堪えながら駿ちゃんの方を見ると、

「駿ちゃんも涙目じゃないですかあ」

「およ、バレっちった」

 ヘラヘラと笑うけれど、その大きな瞳には涙が溜まっていて。どれだけ彼が咲羅のことを大切に想っているか伝わって来て、ついに涙が零れ落ちた。

「推しの卒業ってやっぱり辛いよな」

「ぐすっ……はい」

 服の袖で涙を拭っていたら、ハンカチを差し出された。

「すみません」

「謝らなくていいでやんすよー。気持ちはよくわかるし」

 にゃはっ、と笑う駿ちゃんの笑顔を見ていたら少しずつ涙が治まってきた。

 素直にハンカチを受け取って涙を拭う。

「もうCM明けるから、ちゃんと見守ろうぜ」

「あい」

 鼻声で答えた私を、彼は笑わなかった。ありがとう駿ちゃん。


 CMが明けた。

「それではお聴きください、Rose vampローズ バンプで『飛び降りた』」

 アナウンサーさんの曲紹介の後、カメラが切り替わってメンバーたちの姿が映された。

 拍手の中琴美さんが咲羅の隣に並んで、

「曲の前に、今日は咲羅からファンの皆さんへ、大切なお知らせがあります」

 真剣な表情で言い、咲羅を見て頷いた。

 それに応えて彼女も頷き、マイクを口に近づけて、真っすぐ画面を見つめて話し出す。

「歌う前にお時間をいただいてすみません。でも、情報が出る前に自分の口からお伝えしたかったので、貴重なお時間をいただきました」

 深呼吸をして、震える手でマイクを握りながら

「わたくし岩本咲羅は……年内でRose vampを卒業します」

 スタジオ内がざわついているのを感じる。他のアーティストさんたちだけじゃなくて、今日卒業発表することを知らなかった一部のスタッフさんたちも驚いていた。

 泣かないでって言われていたのに、メンバーの中には泣いちゃってる人もいるし。私も人のこと言えないんだけどさ。

 咲羅は一呼吸おいて、

「こうして、Rose vampのメンバーとして歌番組に出演させていただくのは、あと数回だと思います。最後まで、感謝の気持ちを込めて、歌わせていただきます。この後公式動画チャンネルの方で詳細が発表されますので、そちらをご覧になっていただけると有難いです」

 真剣な表情から一転、彼女は笑顔で

「これからも私たちを見守ってください! それでは改めまして、聴いてください。『飛び降りた』」



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