第5話 飛び降りた2/3
イントロが終わると、黒いロングワンピースを着た咲羅が現れた。すぐに全身が映し出され、彼女がどこぞの建物の屋上の淵に立っていることがわかる。そのまま真っすぐ前を見つめていると、突然背中を押されて足を踏み外してしまった。
「げっ、誰だよ突き落としたの」
やっぱり暗い曲調でいくのか? 胸に不安が渦巻く。
地面へと落ちていく咲羅がスローモーションになり、落ちながらもカラダをひねって落とした人物を見た。それは咲羅自身だった。
そして暗転。
「おーん……」
CGだとわかっていても、ちょいとこれは気分良くないな。どんな感性してんだよ、曽田さんは。そういうとこが嫌いなんだよ。
画面が切り替わり、真っ白な棺に、純白のロングワンピースを着た咲羅が横たわっていた。よく見ると、カラダの周りに『失敗作なんていらない』で破り捨てた写真が散らばっている。
そして、カラダを起こして写真を見ようとする咲羅の手を、誰かが掴んだ。顔を上げるけれど、逆光のせいでそれが誰かはわからない。
ここまで咲羅しか出てきてないんですけど。Teaserで出てきたメンバーはどこへ?
「でも、この身長って」
その人物に手を引かれ立ち上がり、光の方へ向かってそのまま走り出すその人に引っ張られて咲羅も必然的に走る。
彼女よりもかなり低い身長。この身長差は、
「翔ちゃんじゃん……」
咲羅が171cmで翔ちゃんは155cm。だからすぐわかった。実際は翔ちゃんの身長によく似たスタッフさんが手を引っ張ってるんだろうけど、絶対翔ちゃんのことを示してる。
光に近づくにつれて明るくなっていく曲調。
どうしてだろう。胸が苦しくなって、涙が溢れだそうとしてくる。
次の瞬間、画面が真っ白になり、咲羅は思わず瞼を閉じた。
そして瞼を開けると、そこは花畑で、花が舞う中にメンバー全員の姿があった。
一歩踏み出そうとするけど、咲羅は振り返った。そこには誰もいなくて、ただ花が舞っているだけ。
もう絶対翔ちゃんじゃん。翔ちゃんが咲羅を光へと導いて、卒業していった。そういうストーリーなんじゃん。
咲羅は今度こそ前を向いてメンバーの元へと歩みを進める。
そして彼女がセンターに立ったタイミングでサビになり、全員が花のように踊り始めた。
MVを観終わった頃には、涙で顔はぐちゃぐちゃだった。
成程なあ。まさしくテーマ通りの内容だった。サビの「私たちは前へと進む」「もう誰も置いてきぼりにしない」って歌詞。泣かせにきてるとしか思えない。
実際泣いたわけだけど。
さっきは曽田さんの感性疑ってごめん。心の中で謝る。あの人、性根は腐ってるけれど、プロデュース力は信頼できるんだよなあ。
Roseを新しく生まれ変わらせてくれてありがとう。
そんでもって、MVは咲羅ばっかり映ってるからまたいろいろ言われるんだろうけど、好き勝手言っとけ。言いたいやつには言わせておけばいい。
この曲は間違いなく、誰かの希望になる。確信をもって言える。
あぁ、一人で観ていて良かった。こんなぐちゃぐちゃな顔、見られたくないし。
今日は咲羅は自分の部屋にいる。前みたいに襲来されてない。
26日(月)に投稿される『Sorelleデビューシングル発売&生配信、プラス2ndと3rdの発売日のお知らせ』を撮り終えた後、「一緒に観ようよ」って言われたけれど、丁重にお断りした。拗ねられましたけど、一人で観たかった。なんとなく、「泣くんだろうなあ」って予感してたから。
本当に泣いちゃったよ。
もう叶わない願いだけれど、この曲を踊る、翔ちゃんが観たかったなあ。
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