第4話 再会1/3
4月15日(木)
今日は学校終わりにボイトレ。咲羅に褒めてもらった高音をいつか活かせるようにと、彼女に合わせてハモるための練習。
これまでダンスレッスンには散々参加してきたから、ダンスには自信があるんだけどなあ……歌ばっかりは、まだまだこれから。
咲羅は「口からCD音源」ってファンからも、他界隈から言われてぐらいマジで生歌が上手い。『立ち続ける』でも全然息切れせずに歌ってたし。てか、パフォーマンス動画用にレコーディングした音源よりも上手かった。ヤバくない? 普通は音源の方が安定していて上手いはずなのにね。
私もそうならないと。
そう考えると無意識に焦っちゃって、今日のボイトレは上手くいかなかった。情けない。こんなんじゃ彼女の隣に立つ資格なんてない。
いつもは「大丈夫だよ」って慰めてくれる咲羅は、今はRoseの練習中。一緒に駿ちゃんに送ってもらうから、私は練習が終わるのを待ってるってわけ。
はああ、早く咲羅に会いたい。
ヘコみながら事務所の廊下を歩いていると、背後から
「樹里さーん!」
この声はっ。
「華那さん」
振り返ると、手をブンブンと振りながらこちらに走って来る彼女の姿が見えた。
名前呼んでもらえて嬉しいっ! じゃなくて、ここ事務所の廊下だから。そんな大声だしたら迷惑だから。
なんて言葉は、駆け寄ってきた彼女を見て吹き飛んだ。
わぁお、今日もめっちゃ可愛いぃ。素晴らしい。可愛い。うん、可愛い。
語彙力を喪失して一人頷いていると、
「おはようございます!」
勢いよく頭を下げられた。
「あっ、おはようございます」
こちらも反射的に挨拶をしたら、バッと頭を上げて向日葵みたいに素敵な笑顔で私を見つめてきた。
全ての行動が全力投球だなあ、いいなあ。
「あの、先日はお手紙ありがとうございました! 凄く嬉しくて、泣いちゃいましたあ」
「そんなに喜んでもらえるなんて、私も嬉しいです」
泣いちゃったなんて大げさだけど、彼女の全身から喜びの感情が伝わってくるから本当に嬉しい。
まぁ、推しと連絡先を交換したいという私利私欲で書いた手紙なんですけどね。
昇格発表の次の日、彼女からのメッセージに返信してからというもの、私たちは毎日「おはようございます」「おやすみなさい」とメッセージを送り合っている。謎だよね、生存確認かよ。
でも、推しと毎日連絡が取れるなんて最&高でしょ。って、この表現は古いか。
「あっ、あと、樹里さんのおかげで動画も、ライブも上手くいきました!」
「うん。上から目線で申し訳ないけど、凄く練習の成果が出てたと思う。素敵だったよ」
そう言うと華那さんは、
「うぇっ、樹里さんに褒めてもらえるなんて……私死ぬんでしょうか」
「死なない死なない」
某絵画の叫びのように、頬に手を当てて顔を真っ赤にした。照れてる姿も可愛いわあ。
そうそう、フィオ5周年記念ライブは観に行けなかったけれど、研究生の動画の方はちゃんと確認しましたとも。
彼女はしっかりと振りを自分のものにできていた。魅せ方も一番上手かったし。推しという色眼鏡なしで、忖度なしで言える。
だからこそなんだろうね、彼女はセンターで踊っていた。無事に3期生になれたことだし、近い将来絶対センターになれる。
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