第3話 開花待ち8 *駿太*(BL)

「ご飯温めてくっから、手洗っておいで」

「にゃっすにゃっす」

 残りの片方の靴を脱いで、俺は洗面所へ。三春はキッチンへ。

 手を洗いながら、昔のことを思い出す。あの頃三春は料理が全くできなくて、基本的に俺が作るばっかりだった。けれど、よりを戻したら三春は料理ができるようになっていた。

 誰が料理教えたんだろう。誰のために料理を覚えたんだろう。

 初めて料理を振るまってくれた日、嬉しさと嫉妬でごちゃ混ぜになった俺に

「いつかお前に食べさせたくて、頑張って勉強した」

 目を細めて言われちゃった。

 嬉しすぎて死ぬかと思った。冗談抜きで。愛おしさで爆発しそうだったもん。

 それからは、基本的に俺が朝食を、三春が夕食を作る担当になった。

 ここまで言ったらわかるよね。はい、同棲してます。毎日イチャラブしてます。えへへ。


「おーい、いつまで洗面所いんの。寒いだろ」

「にゃはは。ちょっと考え事してた。めんごめんご」

 おっと、いつまで経ってもリビングにやってこない俺を心配して、三春がやってきちゃいました。「寒いだろ」って……そんなに俺は軟弱じゃないんだけどなあ。

 なんて。言わないよ。だって心配してもらえるって嬉しいじゃんかよ。

「なにニヤニヤしてんの、折角のご飯が冷める。行くぞ」

 ありゃま、調子乗ってたらちょっぴり拗ねちゃった。あるはずもない耳が、頭の上でペタンとなってるのが見えた気がする。こういうさ、なんというか犬っぽいところあんだよね。わかる? 伝わってる? あ、勿論小型犬じゃなくて大型犬ね。

 動こうとしない俺に痺れを切らしたのか、三春は俺の左手を握って、リビングに連行する。

 ちょっとぐらい「待て」ができてほしいもんだねえ。


「おっ、めちゃんこ美味しそう!」

 テーブルの上に並んでいたのは、美味しそうなカレー。

 俺の喜びの声に、三春は目を細めて嬉しそうに笑った。うん、その笑顔が好きなんよなあ。

 そう思いながら荷物やら上着を片付けて、席に着く。

 三春も向かい側に座ったところで

「「いただきます」」

 手を合わせから、スプーンを手に取る。カレーをすくって口に運ぶと

「うんまっ」

 滅茶苦茶美味しい!

「良かった」

 三春の反応はシンプルだったけど、やっぱり目を細めて笑ってるから、喜んでるのがちゃんと伝わってくる。

 うん、俺っち幸せー。

 不意に幸せを感じながら、俺は三春を見つめた。

 いろいろあったけど、こうしてまた一緒にご飯を食べられるようになって良かった。

「……どした?」

 手が止まっていることを不審に思ったのか、首を傾けて聞いてくる。

「んーにゃ」

 その気持ちはまた後で伝えるとして……、いやダメだな。ちゃんと気持ちは伝えないと。

「幸せだなって」

 笑って言う俺に三春は目を丸くしたけれど、またすぐに笑って

「そうだな」

 とろけそうなくらい優しい声で言ってくれた。


 それから俺たちは、ゆっくりとカレーを食べながら幸せな時間に心をゆだねた。


**

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る