第3話 開花待ち4/8 *咲羅*
*咲羅*
本当は、曽田からMVや衣装について確認のメールなんて届いてない。あったとしても、明日会って話をすればいいだけだし。あ、「ちょっとでも一緒に居たい」ってのは本当。
でも、そんな嘘をついて樹里の部屋に押しかけたのは、研究生の昇格発表を見守る彼女を監視しておきたかったから。
事務所でレコーディングや練習はきっちりこなしていたけれど、朝からずっとソワソワしっぱなし。
シンプルにムカつく。樹里は私だけ見てればいいのに、中井って子に首ったけ。なんで推しにしちゃうかなあ。推しは私だけで十分でしょ。
本当に最悪。
って、油断してた私も悪いか。樹里も私と同じようにフィオのことを見放していたから、研究生なんて眼中になかった。
それなのに、それなのに、よ。
一緒に練習しただけで推しになっちゃうなんて。
樹里は気づいてないんだろうけど、アイツの樹里を見る目。『大好き』で溢れてたよ。というか、全身でアピールしてた。
それをスルーしちゃうのが樹里なんですけどね。今回ばかりは、鈍感で良かったって思う。
でも、レッスンスタジオのドアが閉まる瞬間、私と目が合った彼女の目の奥に、確かに炎が見えた。
嫉妬してる、私に。
樹里からの嫉妬なら嬉しいんだけどさ、モブから嫉妬されても
それでも、樹里が彼女を推しにしちゃったから、無視できない。いつか対決する日がくるはず。
だから樹里の部屋にお邪魔したわけ。彼女がどれだけ中井のことを好きなのか確認しておきたかったから。
いや、私に対する愛情には到底敵わないってことぐらいわかってるよ。けど、なのよ。私とは違うベクトルで中井のことを好きになっちゃってるからさ。油断大敵。
20時。
タブレットを見ているふりをしなくても、樹里は画面に夢中だから、大胆にソファからガン見させてもらう。一応イヤホンをしてるけど。
祈るように手を組んで研究生たちを見つめる姿。うん、可愛い。でも、その綺麗な瞳が中井を見つめてると思うと……やっぱり嫌だわ。
「
曽田の声が聞こえる。
ドキドキしている樹里には悪いけれど、私は結果を知ってる。「全員合格」って予め曽田に教えてもらったから。
つまんないの。
「おめでとう、全員昇格だよ」
彼が合格を発表した瞬間、樹里は
「よっしゃあああああ」
歓声をあげてガッツポーズ。それだけじゃなくて、脚もバタバタさせちゃってる。
そんなに嬉しいのね。イライラが止まんないわ。
すると、樹里の動きが拳を突き上げたまま固まった。あ、これこっち見るパターンだな。
慌てて視線をタブレットに戻と、視界の端で彼女がこちらを一瞬見たのがわかった。
樹里の行動なんて想定済み。何年一緒にいると思ってんのよ。
すぐ視線を画面に戻した彼女を確認して、再び見つめる。
「うん、泣いちゃうよね、うんうんうん」
樹里の反応からして、多分中井は泣いているんだろう。声に出ちゃってるし。
あーもう我慢できない。ムカつく。
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