第3話 開花待ち3/8
数秒
「おめでとう、全員昇格だよ」
口角を上げて言った。それと同時に、研究――ううん、3期生たちは歓声を上げた。勿論、画面の前の私も。
「よっしゃあああああ」
部屋中に響く声を上げながら、
それだけじゃ喜びの感情を抑えられなくて、立ち上がってPCの前でのたうち回る。
ここが家で良かった。誰かに見られたら社会的に死んでた。
あっ……咲羅がいたんだった。
そっと彼女を見ると、イヤホンをしてタブレットを観ていた。全くこちらは気にしていない。うん、良かった。本当に。
実は駿ちゃんに事務所で見学していいよって言われたんだけどね。丁重にお断りしました。
だって、自分がこうなることは過去の経験で学んでいたから。まさか事務所でのたうち回る訳にはいかないでしょ。
その代わり、駿ちゃんに「もし合格したら、華那さんにコレ渡してください」って、手紙を預けてある。手紙というか、『ファンレター』ですね! しっかりSNSの連絡先書いたファンレターです!
えっ、職権乱用じゃないかって? はい、そうですとも。職権乱用させていただきましたとも。別にいいじゃん。同じ事務所のアイドルなんだし、連絡先交換しても問題ないでしょうが。
あと、ちゃんと手紙は1枚に収めてあるから。PCで下書きしてたら軽く3枚超しちゃったので、しっかり削りました。文才ないなりに頑張ったんですよ。
ちょっと気持ちが落ち着いてきたので、再び画面に目を向ける。
「うん、泣いちゃうよね、うんうんうん」
華那さんは泣いていた。うわあ、久しぶりに見た純粋な涙。ポロポロ涙を零す姿も可愛いなあ。
頬が緩んでいくのを感じながら、うっとりと画面を見つめていると
「へぇ」
「うわっ」
いきなり咲羅が肩に顎を乗せてきて、間髪入れずに
「やっぱり全員合格したんだ」
ビックリして振り返ろうにも、お腹に手を回されてるし肩も抑えられてるから動けぬ。
「タブレット見てたんじゃないの……」
彼女の吐息を耳で感じてドキドキしちゃってるのが伝わらないように、必死に冷静な口調を装う。
「あまりにも樹里がうるさいから、観にきた」
「あーそれはごめん」
「謝らなくっていいよ」
そう言いながらも、チラっと見てた彼女の眉間には皺が寄っていた。
あ……忘れてた。咲羅、私が華那さんと2人きりで練習したとき、嫉妬してたんだった。「うるさいから観にきた」ってのは嘘で、歓喜している私にイラっとしたから、こっちに来たんだな。
こりゃあ、連絡先を書いたお手紙を駿ちゃんに託したこと、黙っておいた方がいいな。バレたら大喧嘩に発展する未来が見える。確実に。
後で駿ちゃんに口止めしとこう……咲羅の性格をよく知っている彼なら言わないと信じているけれど、念のために。
少々ピリついた空気が支配する私たちの部屋とは対照的に、画面の中では3期生たちが嬉しそうに順番にコメントしていた。
残念だけど、華那さんのコメントは後で観させてもらおう。今は咲羅女王様のご機嫌とりが最優先。
「ねえ、さくちゃん」
「にゃっす」
PCの画面を閉じながら、
「今日一緒に寝る?」
そう尋ねれば、パッとカラダが離れて
「寝る!」
即答でした。
咲羅は「早く早く!」と私の手を引いて、寝室へ向かおうとする。
「ちょいちょい、まだ歯磨きしてないのよ」
「……」
「そんなジト目で見られてもですね」
仕方ないじゃん。してないもんはしてないんだから。
「じゃあ私も歯磨きする」
「はい?」
さっきの反応からして、貴女はもう歯磨き済みでしょうが。また磨いても意味ないでしょうが。
またジト目で見つめられる。
「はいはいはい、わかりましたよ。一緒に歯磨きしよっか」
私よりも6cm程高い彼女の頭をヨシヨシすると、秒で笑顔になりました。帆が緩みまくってます。
そうして私たちは、仲良く2人並んで歯磨きした後、一緒にベッドで眠りました。
夜中、私のSNSには『Kana』という人物からメッセージが届いていた。
【樹里さん! 中井華那です! よろしくお願いします!】
【お手紙ありがとうございました。滅茶苦茶嬉しくて、また泣いちゃいました(笑)。また直接お会いできるのを楽しみにしています!】
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