第3話 開花待ち2/8

「なにしてんの?」

「衣装の確認と、MVについて曽田さんから確認のメールが来てたから」

 成程、ここで構想を練るわけですねー。ん?

「うちでやる必要性とは」

「ちょっとでも一緒にいたいじゃん」

 タブレットから顔を上げ、ニコっと笑って言った。

 うわぁお、その気持ちはシンプルに嬉しい。しかし、しかしですよ。思わず上がりそうになる口角を抑えながら、

「え、でも私これからフィオの――」

「知ってる知ってる。どうぞご勝手に。興味ないから」

「いや、ここ私の部屋やっちゅうの」

「……」

 スルーかいっ。

 手をヒラヒラと振る咲羅は、再びタブレットに視線を戻していた。

 ホントこの子ったら……こんなになるまで甘やかしたのは一体どこの誰よ!

「……私か」

 きっと主犯格ですよね、そうですよね。仕方ない。言葉を交わさなくても、咲羅と同じ空間にいれるってだけで私も嬉しいし。

 ってこういうとこだよなあ。甘いよなあ。


 それに、咲羅がフィオに興味がないのは本当だし、無理に付き合わせることはない。私だって、3月に華那さんが推しになるまで、フィオの研究生なんて興味がなかったから。

 我ながら手のひら返しがエグいと思う。でもさ、推しに出逢えるのって『運命』じゃん。自分で決められるものじゃないって、私は思ってる。

 それまで興味がなかったのに、ふと歌番組を見ていたら興味を持って沼にハマってしまったり、グループの別のメンバーが入り口になって、最終的に違う子に辿り着いたり。

 なんていうか、恋に似てるよね。フォーリンラブだよ。


 そんなことを考えていたら、スマホが鳴った。20時になったら鳴るように設定していたアラーム。

 慌ててPCの前に戻る。数秒後、画面が切り替わり、互い違いに立った研究生たちが映った。

 えーっと、華那さんは……

「おっ」

 センターにいるじゃん! これって曽田さんから期待されてるって解釈していいよね? 大切な合格者発表の場で、適当に並ばせるわけがないし。

 これで落とされたら、一生曽田さんのこと恨むからな。ん、もう既に恨んでるか。咲羅を苦しめた張本人だもん。

 画面に映った彼の姿を観ながら、どうか地獄に堕ちますように、と呪いの念を送った。


 張り詰めた空気の中で、曽田さんが口を開く。

「約4カ月間、よく頑張ったと思います」

 彼は全員の顔をゆっくりと見ていく。

「緊張してるなあ」

 表情が強張りまくっている華那さんを観ていたら、なんか手汗かいてきた。

 絶対合格してるよね。大丈夫だよね。

「それでは、さっさと本題に入りましょうか」

 曽田さんの言葉に、更に華那さんの表情が強張った。他のみんなも、不安そうにしていたり眉間に皺がよっていたり。ちょい、眉間に皺はアイドルらしくないからやめなさいな。

 とは、言えないなあ。緊張したらそんな表情にもなるわな。

 かく言う私も、絶賛眉間に皺が寄ってるし。手汗まみれだし。

 ポケットから紙を取り出した曽田さんが、口を開く。

FioReフィオーレ 研究生、3期生昇格者は……」

 ごくり、と唾をのむ。

 研究生たちはじっと曽田さんの言葉を待っている。

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