第3話 開花待ち1/8
4月4日(日)
今日はフィオの研究生合格者発表の日。練習とレコーディングは朝からやって夕方までだったから、寮に帰って速攻ご飯とお風呂を済ませた。
咲羅と曽田さんは3rdシングルまで、この短期間で全9曲を書き上げた。だから、あとはレコーディングとMV撮影、dance動画撮影のみ。
いや、凄すぎん? 曽田さんはやっぱり嫌いだけど、その手腕だけは認めざるを得ないし、咲羅は咲羅でどんどん作詞能力を向上させている。流石だわ。
そんでもって、スタッフさんたちも凄いのよ。衣装ほぼ決まってるし、MVもどんな感じで撮るかほぼ固まってるらしい。有能すぎる。
って今は私のことはおいといて、20時からの生配信に向けて準備万端! PCの画面には『
あと数分で始まっちゃう。何故か胸のドキドキが止まらなくて、ソワソワしてしまう。この『開花待ち』が楽しくもあり、不安でもあるんだよなあ。
いつの頃からか、フィオやRoseの研究生たちの合格者発表までの待ち時間を『開花待ち』とファンの間で呼ばれるようになった。考えた人天才過ぎる。諸説あるけれど、事務所の名前が『フラワー・エンターテインメント』であることが由来の1つらしい。
ピンポーン。
そんなときチャイムが鳴った。はて、こんな時間に誰だろう……なんて悩む必要はない。駿ちゃんなら事前に連絡があるはずだし、思い当たる人物は一人しかいない。
モニターを確認すると、やっぱり。通話ボタンを押す。
「どうしたの、さくちゃん」
そこにいたのは、ふわふわのパジャマに身を包んだ咲羅。
「んにゅ、お邪魔パジャマ」
「意味不明なんですが」
萌え袖で首を傾けられても、言葉の意味が全くわからない。可愛さしか伝わってこないのよ。
まあ、いっか。
玄関に向かい、鍵を解除してドアを開けた。廊下にそのまま立たせておくわけにもいかないから。
「さっきぶり」
彼女は微笑みながら入って来て、
「にょん」
抱き着いて首元に顔をうずめてきた。有名なメーカーのパジャマの抱き心地は最高で、首に当たっている彼女の髪がくすぐったい。
うん、会話になってないけど可愛いからOKです。あとさ、
「匂い吸い込むのやめてもらっても?」
「……」
無視かい。
「くすぐったいんですけど……」
そう言って、数秒後やっとカラダを離してくれて、
「お邪魔パジャマ」
サンダルを脱ぎ、家主の私を放ってそそくさとリビングへと歩いて行く。
ちょいちょいちょい。冬なのになんでサンダルなのさ。というか、「お邪魔パジャマ」って、あんたそれマイブームなんか。初めて聞いたけど。
ツッコミどころが多すぎるっ、でも可愛いからOK!
頭を抱えながらリビングに入ると、咲羅はソファに座ってタブレットでなにやら作業を始めていた。
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