第2話 慌ただしい日々3

 あ、話が脱線してる。

 咲羅は、歌詞を書き上げた段階で「見て」って見せてもらったけど、口を挟む余地なんてないほど完璧だった。文才皆無な私は、最初っから歌詞に口出しつもりなんてなかったんだけどね。

「私たちの曲だから」

 ちゃんと読んで。そう言って咲羅が見せてくれたことは、嬉しかった。


 タイトルは『未来LIGHT』。フィオを卒業して私と新しいスタートを切る、咲羅の決意と、新しい時代を創っていこうという私たちの願いが込められた力強い楽曲になってる。

 A盤、B盤、通常盤の3形態の発売なんだけど、これもSorelleのやり方。今後もこの売り方でいくらしい。

 そんでもって、全部共通して『未来LIGHT』が収録されているけれど、AとBで収録曲が異なっている。A盤は2曲目に『翼』、B盤は『Buddy』。通常盤は、その両曲が収録されていてる。

 あと、A盤B盤にはDVDがついてる。A盤には『未来LIGHT』MVと『翼』Dance動画、収録風景(Behind the scenes)。B盤には『未来LIGHT』マルチアングル、『Buddy』Dance動画が収録されてる。

 共通特典はいろいろあるんだけど、ポイントはデビューライブの応募抽選券が入ってるってこと。東京だけじゃなく、全国各地で行うデビューライブなのです!

 しかも、デビューシングルを買っただけじゃ応募できない。3カ月連続でリリースされるシングル全てを買わないと、応募できない!

 うん、こういう商法って叩かれやすいしあんまり良くない感じがするよね。でも、咲羅が発案しちゃったもんだから、なにも言えない。

 アイドルらしくっていいんじゃないかな……うん。


 そして、私たちはレコーディング、振り入れ、特典のポスター撮り、MV撮影、と慌ただしい日々の中で必死にこなしていき、デビューシングルの発売日が6月1日(火)になることが決まった。

 衣装は、2人とも全身黒。レースアップのロングコルセットに、パニエを履いて少しふんわりとしたシフォンのフィッシュテール超ミニスカート。そして、黒いストッキングにレースの手袋。私がショート丈で、咲羅はロング。靴は、咲羅は10cmピンヒール。対して私は、7cmのピンヒール。

 なんでだよ! いつかはピンヒールって思ってたけど、いきなりかよ。しかも厚底じゃないから安定感皆無。踊りにくいったらありゃしない。「厚底がいい!」ってごねたのになあ……。

 それでも、決まってしまえばやるしかない。毎日ヒールを履いて足をボロボロにしながら練習練習練習。


 しんどいけど、充実した日々。でも、問題が一つあって。

 体重が勝手に減っていくんだよね。食べても食べても。まあ、あんまり食欲がなかったのは事実だけど。

 今ならわかる。食べても食べても体重が減っていったあの頃の咲羅のことが。

 本当にアイドルって大変なんだな……。まだ始まったばかりなのに、いや、「ばかり」だからこそなのかな。カラダと心がついていかない。

 それでも毎日練習に励んだ。デビューしたら、咲羅と比較されることは目に見えていたから。少しでも彼女に追いつくために。

 比較されて叩かれても、目指すべき道を見失わないために。


 咲羅は2ndシングル、3rdシングルの作詞で大忙しだった。学校でも事務所でもノートを開いてずっとうなっていた。連続リリースだから、休んでいる暇なんてない。兎に角タイトル曲だけど先に書くことにしたようで、2枚目のタイトルは『アンチテーゼ』、3枚目は『高嶺の華』に決まった。

 その様子は、絶えず密着カメラに収められていた。

 あと、『立ち続ける』は3rdシングルのA盤2曲目に収録されることも決まった。敢えて話題を呼びまくっている『立ち続ける』をタイトル曲にしないことで、歌番組に2週連続か、間を置いてか、呼ばれるために。最初に咲羅から提案されたとき、私は二つ返事で了承した。ちょっとズルいかもしないけど、メディアへの露出は多ければ多いほどいいでしょ。


 そうして私たちの毎日は過ぎていき……練習漬けの春休みは嵐のように過ぎ去って、私は咲羅の隣の部屋に引っ越し、4月を迎えた。

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