第3話 開花待ち5/8 *咲羅*

 彼女に気づかれないようにそっと立ち上がって、背後に立った。

 画面に夢中な樹里は私のことなんて忘れてるみたい。いや、気づけよ。あんたの一番好きなヤツが後ろに立ってんだから。

 そんなイライラする気持ちを抑えきれず、

「へぇ」

 彼女の肩に顎を乗せてると、「うわっ」て驚かれた。私以外にそんなに夢中になんないでよ。

「やっぱり全員合格したんだ」

 そう言いながら樹里のカラダに腕を回して、がっちりホールドする。

「タブレット見てたんじゃないの……」

 そんなもん見てなかったわ。貴女の顔ガン見してたのよ。とは言えないから、咲羅の耳に口を寄せて

「あまりにも樹里がうるさいから、観にきた」

「あーそれはごめん」

「謝らなくっていいよ」

 全然申し訳なさそうじゃないし。相変わらず画面を見たまんまだし。

 彼女の反応に、自然と眉に皺が寄ってしまう。

 私のイライラが伝わったのか、漸くPCの画面を閉じながら

「今日一緒に寝る?」

 やっば、今の言い方滅茶苦茶可愛い。

「寝る!」

 思わぬ提案にパッとカラダを離して、樹里の手を引いて寝室へと向かう。

 あー樹里ってば、私の扱い方上手いなあ。流石だよ。さっきまでのイライラが吹き飛んじゃった。

 なのに、

「まだ歯磨きしてないのよ」

 なんでだよ。思わずじーっと彼女を見つめてしまう。

 でもまあ仕方ない。ここは私が折れてあげよう。

「私も歯磨きする」

「はい?」

 およよ、私は歯磨き済みだってことに気づいちゃったか。別にいいじゃん。これぐらい。

 今まで中井に夢中だったんだから、私にも時間を頂戴よ。

 そう思いながら再び彼女を見つめると、

「はいはいはい、わかりましたよ。一緒に歯磨きしよっか」

 苦笑しながら頭を撫でてくれました。うわっ、あざとい! 可愛い! 逮捕! 勝手に頬が緩んでいく。

 我ながら現金だと思うわ。うん。


 そうして私たちは仲良く歯磨きをして、1人で寝るには少し大きいベッドに一緒に入った。

 疲れたんだろうね。樹里は「おやすみ」ってすぐに目を閉じてしまった。

 私も「おやすみ」と返事をしながら、これからのことを考える。

 きっと中井は樹里と距離を縮めようとしてくるはず。多分、樹里もそれを望んでいる。

 アイドルがアイドルを推しにしちゃいけない、なんて決まりはないし。あいつ、樹里と関わるためならなんだってしてきそうだな。

 こりゃあ、四六時中監視した方が良さそう。樹里のスマホにはGPSのアプリを入れてあるから居場所はすぐにわかるけど、誰とどんな会話をしているかはわからない。

 それなら、手始めにこの部屋に隠しカメラか盗聴器でもつけよう。手荷物にも盗聴器仕込みたいな。どうやろうっかな。バレたら終わりだし。

 まあ、樹里なら許してくれそうだけど。だって、GPSアプリを勝手にいれたときだって、彼女は呆れながらも怒らなかったんだから。

 よし、明日曽田に相談しよーっと。

 そんなことを考えながら、ゆっくりと瞼を閉じた。


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